5.アップデート?アップグレード?

月曜日の放課後───


あれからも何度かノイズに悩まされた。

眼科でどうにかなれば良いんだけど‥。


いつもの場所で待ち合わせていると、制服姿のリサが現れた。

「ごめん!待たせちゃった?」


制服姿のリサ、イイ♡



電車に乗って数駅、リサに手を引かれながら眼科へ向かう。


ニギニギ‥ぎゅ☆


さりげなく、指を絡ませる恋人繋ぎにチャレンジしてみると、リサのほうから握り直してくれた。


「男子ってこういうの好きなんでしょ?」と悪戯っぽく笑う。


「えへへ(もちろん!大好きです!!!)」



《脈拍の異常を検知》



はぁーはぁーー‥流石に出るよねーーー‥


繁華街を抜けて、入り組んだ路地をしばらく行くと、古めかしい看板が見えてきた。


【アークライト眼科】


「さ、入って!」


リサはまるで自宅に招き入れるように、俺を引っ張っていく。


そして、ほんとに自宅に帰ってきたかのように、ずかずかと奥の診察室へと入ってゆく。


「おじいちゃーん、連れてきたよー‥」


今なんて!?!?


「おー、リサ、お帰りー‥。連れてきたってぇ?例の彼氏か~?ヒーッヒッヒッ」

「ちょっ!お・お友達だって言ったでしょ!」


診察室のドアが開いて、リサが顔を出す。心なしか、ほっぺが赤いような‥。


「こっち、入って」と、小さく手招きするリサ。


あはぁー♡


もうね、ことごとくやられっぱなしですよ‥。


診察室に入ると、かなり高齢な腰の曲がった老人が白衣を着ている。

この老人が眼医者さん‥だよな。


そんで?リサのおじいちゃん‥祖父?

チラチラと見比べている俺に気付いたリサが改まって「紹介するね、あたしのおじいちゃん」


あー、聞こえていたまんまだ。


「ごめんね、黙って連れてきちゃって(ペロ)おじいちゃん、こんな歳だけど腕は確かだから、安心して」


「あ、うん。あの、よろしくお願いします」ビシッ!と頭を下げる。


「んーー‥どれどれ、早速見せてもらおうかのぉーー‥んーー‥孫とは‥どこで知り合ったんじゃ?」


「ぇ‥‥あの‥‥」リサに視線を送る。


「ちょっ!おじいちゃん、眼を診てくれるんでしょ?」


「あーー‥そうじゃったかのぉ。もう儂も歳だからのぉー‥この歳で、ひ孫ー抱けるかもと思ったら、興奮してしまってなぁぁああーーアーッハッハッ!」


「あはっ‥ははっ‥」


「もう‥大丈夫かしら(ボソ)‥あ!だ・大丈夫よ?ほら、おじいちゃん、ちゃんと診てあげて!」


「はいはいーー‥っと、どれどれぇー‥」


眼球にライトを当てられる。診察が始まると、おじいさんの目つきが変わった。

やっぱり、ちゃんとした眼医者さんなのだろう。


「お前さん、『眼』はいつ入れたか覚えとるかい?」


「えーーっと‥‥小学校入ったくらいだったかな‥‥」


「ずっとこの街に住んどるのかな?」


「はい、生まれも育ちも、ずっとこの街です」


「なるほどのぉー‥‥。もう1つ、重要なことを確認するんだがぁー‥」


ゴクリッ。なんなんだろう?俺の『眼』の出所になにかあるのか?


「孫とは、もうチッスはしたのかの?(ニヤ~リ)」


スパンッ☆

流石にリサが切れて、おじいさんの後頭部をスリッパで引っ叩いた。


「冗~談じゃよぉ~‥もおぅ~‥さてさて『眼』じゃがの、ソフトウェアをアップデートして様子を見るのでも良いが、製造年によっては寿命が来とる場合もあるでな、最新の『眼』にアップグレード、交換することもできるが、どっちが良いかの?」


え‥急だなぁ‥「新しい『眼』と交換だと、お金、結構かかりますよね?」


「そうじゃな。両眼じゃから、四十万ちょいはするが‥、高校生なら全額補助が出るからタダじゃよ?」


「ぇ‥タダ?‥無料?」


「そうじゃ、最新の入れてみるか。こないだ入ったばっかりのがあるでな」





そんなこんなで、最新の『眼』と交換してもらった。

スマートフォンを最新機種に乗り換えるような感覚で‥‥。


そういや、親の承諾とか要らなかったのかな?‥まぁいっか。タダだし。





数時間後───



無事に交換手術も終わり、視力も戻った。

何も見えない間、リサがずっと手を握っていてくれた。と思う‥。

まさか、おじいさんじゃないよな‥俺の手を握ってたの。


新しい眼で、最初に観るのが、心配そうに覗き込むリサの顔‥なんという幸福♡


リサは『眼が馴染むまで付き添う』と言って、一緒に病院を出る。


もう手を繋ぐ理由が無い‥けど‥どうだろう‥と葛藤していると、リサの方から手を繋いできてくれた。

しかも恋人繋ぎ♡


周りの景色がファンタスティックに観えるのは、新しい眼のせい?

なんてことを考えながら歩いていたが、ピント調整が速くなってる気がする。

さすがは最新型だ。


あっという間に駅前に到着してしまった。


「違和感とかあったら、すぐに連絡してね」


名残り惜しく手を放す。


「違和感とかなくても、連絡するよ!」


「うん‥じゃぁ、またね!」


リサの屈託のない笑顔♡画像に残したいー‥



《保存しました》



え?え!?何処に!?





ちょっとした驚きと戸惑い、そして主に幸せな余韻を残し、電車に乗る。


改めて周囲を見渡してみると、この最新型の『眼』は、ほんとに凄い。


ズーム機能も備わっているし、脈拍・血圧・血中酸素濃度・・見ようと思えば色々な情報が出てくる。


なんと言っても、さっき保存した映像を、考えるだけでいつでも再生することが出来る!

『うん‥じゃぁ、またね!‥‥‥うん‥じゃぁ、またね!‥‥‥うん‥じゃぁ、またね!』


はぁ~♡ いつまでも観ていられる。


しかし、めちゃくちゃニヤけている自分にハタと気付いて、慌てて中吊り広告とかを眺めてごまかした。



『見えることがすべて。政府を信じて、未来を見据えよう!』



『真実は政府の眼に映る。信じろ、従え、守られろ』



『政府の眼が守ります。安心して生活を享受しましょう』



‥‥やたらと『政府』の広告が目につく。


電車の中吊りって、こんなだったっけ?


さして興味も無かったので、あまり気にすることもなく、家に着くころにはすっかり忘れていた。





家に着いたら早速、リサにメッセージを送信した。

『無事に帰宅したよ。今日はありがとね!』


すぐに既読マークが付いて、返信がきた。

『良かった!眼、なんともなかったかな?』


他愛もない会話は夜遅くまで続いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る