【東北時報によると】(新聞の切り抜き)

 令和六年七月二十六日、岩手県警に東北大学(※)妖怪学部妖怪学科講師の一人が行方不明になったと、大学の同僚と名乗る人物から通報があった。

 しかしながらその失踪した同僚の氏名や住所について覚えている者はおらず、通報した同僚も、その失踪したと訴える者の名を言えなかった。

 また、その失踪したという同僚の著作物とされる本は、失踪を通報してきた職場同僚の著作として刊行され、表紙にも奥付にも通報してきた職場同僚の名が記載されている。出版社もまた、当該著作の作者はその通報した職場同僚であると認めた。

 しかしながら通報してきた職場同僚は、その本を書いた記憶がないという。


 ただし、その失踪した人物が存在したのは確かであるらしい。

 東北大学妖怪学部関係者は、その名前もわからぬ「同僚」が確かに存在した事実は断言し、「いつかこうなると思っていたよ」と、のんびりした調子で頷きあっている。

 県警に通報した職場同僚はのちに訴えを撤回した。

 この件は「虚偽告訴罪」に該当する可能性もあるが、今回に限っては被害を被った者はいないことから県警はその通報者に対し簡単に説諭を行うに止めた。

 なんとも狐につままれたような事件である。


 ※紛らわしいが、宮城県仙台市にある国立東北大学ではない。こちらの東北大学は岩手県立である。

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