【備忘記録】カラカラと、耳に響くのは

 ……これは、私の記憶だ。

 でも、いつの記憶なのか、分からない。


 からからと、音がする。

 耳にまとわりつく、幻の音。

 この音は、風の音だ。

 風が冬の葦原を吹き渡る音。

 乾いた茎が風に身を打ち鳴らす音。


 私はどこにいる?

 視界は揺らいでいる。

 葦原、湖岸、光射し染める空は微かに紅い。

 風が吹く。くるりと翻って視界の天地が入れ替わる。

 ああ、岸辺にだれかいる。

 あれは、だれ?


 風が、止んだ。

 私は無音のなかを、所在なく翻っている。

 いま、私は鳥だ。大丈夫、飛んでいてもおかしくない。

 ケ――――ン……

 この音は、なんだ?

 そうか、私が鳴いたのか。


「オマエモサミシイノカ」


 岸辺のだれかが言ったのだ。

 それがどういう意味なのか、そのときの私には分からなかった。


 ああ、からからと、音が戻ってきた。

 なぜか、身体が重い。

 私はもう、飛べない。

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