K

江川キシロ

影絵の殺人

始まり

 夜中に目を覚ましてしまって輾転反側する羽目になる……一度は体験したことあるだろう。どうせ寝られないならと普段しないようなことをし始めて結局無理にでも寝たほうが良かった、なんて経験はないだろうか。あの日の私も引越したばかりだったからか夜中にふと目を覚まして寝付けない内に、あの事件を目撃してしまったのだが……

 私の悪い癖だ。物事は最初から説明する必要がある。

 私がH県のKに引越してきたのは、前の家が取り壊しになってしまい追い出されてしまったからだった。Kの近くのTに住んでいた私にとっては都会のKに引越すのは色々と気が引けたが、新しい家の家賃を値切りに値切ることができたこと、どうせ行くところもなかったことから結局Kに移ることになったのだった。

 内見などもすることなく手渡された住所に荷物を送り、その足で新しい家へ車を拾って向かうとそこはKのイメージとはかけ離れた立地の家だった。小高い丘、といっても並の丘ではなくかなり急な坂の上に三軒ならんだ平屋が建っているだけで何もないような場所で、谷筋の家が一望できてしまうような、足の便の悪い家であった。実際、家の谷側の窓からは夜景と言えるような景色も味わえたが、それもこれを書いている今となっては飽きてしまっている。

 小綺麗な家ではあったが、駅からも遠く納得の値切り価格だし、なんだったら吹っかけられた値段に対しても家を見た私は怒りが沸くような心持ちだった。三軒の家が丘の上で身を寄り添うように建っているのもなんだか寂しいものであった。

 三軒並んだ家の真ん中が私の家で、残りの二軒もこれから話す事件に関わりがあるから話しておく。

 谷に向かって私の左の家は占い師をやっているとかいう女の家で、名前は財田文子という。占い師というのも珍しいが、彼女の占いというのは特別珍しく「訪問占い」というのをやっているそうだ。人様の家に訪ねていって「あなた、〇〇で困っていますね?」なんて言ってブレスレットや壺なんかを売りつけているそうだ。これが結構流行っているらしく金は持っているらしいが、一向にこの便利の悪い家から出ないそうだ。

 このことは引越した二、三日の間に近辺をうろついて所謂井戸端会議に潜り込んで仕入れた情報である。反対の右の家には男が一人で住んでいるようで、ボディビルかなにかをやっているそうだがイマイチ何をしているのか判然としない。たまに女を連れ込んで宜しくやっているらしいが、どういう関係までかはおばちゃん連中も知らないようだった。

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