現代ファンタジー

山岸タツキ

1話「冒険」

昔夢で存在しない場所を見たことがあった。

幼稚園児か小学生の頃の記憶だ。

細い道路を挟んで、幼稚園と小学校の敷地があった。

その奥に進んだらT字路の正面に病院があって、左へ進んだら畑が2キロ先まで広がる地区へ続く道。

右へ進んだら住宅街だ。学校横の細道のような分岐点が無数にあり、迷路みたいに入り組んでいる。

当時の俺は、そこに迷い込んだ夢を見た。

一度ではない。三回は同じ夢を見たと思う。

そして驚くことに、その夢を見た、という話を2人から聞いたのだ。

誰だったか覚えていないが、当時のクラスの人間だ。

その頃は、すごい事なんじゃないか、と興味津々だったのだが、だからといって何が起こるわけでもない。

実際行ってみればただの住宅街だし、今では迷路とすら思っていない。

多分、子どもの脳では情報が処理しきれないが為に、睡眠中の脳の整理で変なバグが発生しただけ、なのだろう。

だけど今俺は、その場所に向かっている。

市内に引っ越した現在、その場所までは自転車で片道1時間程かかる。

何故こんな事をしているかというと、暇だからだ。

だけどたまにこうやって、思い出の場所まで行くのが楽しい。


小学校の運動場の端に自転車を止め、その細道を歩く。

着いた時点で、ただの道である事は見て取れた。

少しでも何か起こるんじゃないかと思った自分がバカバカしい。

病院の前へ。不気味でも綺麗でも無い、普通の病院だ。

夢の中で進んだルートを思い返す。その通りやってみようとここまで来たのだ。

右に曲がり、すぐに左へ曲がる。左からは枝切が伸びて、右は生垣で奥が見えない。

しかし道であることは、アスファルトを見れば分かる。若干下り坂になっている。

超えてすぐの左側だ。ここに空き地があって。

あれ、有る。目の前に現実は意外なものだった。

当時このルートで来た時は、普通の民家だった。

何度来てみても、代わり映えのない民家だった。

何なら、その家主と挨拶を交わした事すら有る。

だが、今目の前に有るのは、やっぱり空き地で、夢と同じなのだ。

急に怖くなった。確か、ここに一歩は入れば、辺りが暗くなった。

まさか、そんな事あるわけ無い。空き地だって、ここの家主がいなくなって、取り壊されただけだろ。そうだ、それだけのことだろう。

喉を慣らし、覚悟を決めた。右足を伸ばし、空き地に一歩踏み入れる。

何も、ないな。

「おかえり」

心臓が跳ねて前を見ると、黒い、影のような物体が人の形をして立っていた。

声を上げたかったが、異様な事に身動きが一切取れない。

その、影は少しずつこちらへ近づいてくる。

目の前に来た時、身長が2メートルはある事に気が付いた。

明らかに人間ではない。

そのままその影の腹部辺りに、視界が覆われる。

これは、あの時見た暗闇の景色と同じだ。

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