彼のこだわり

 生まれて此の方、二十一年。

 平平凡凡に生きてきた俺には、その人生の大半を共に過ごしてきた人間がいる。

 小学校から始まり、中学・高校も同じ。

 ちなみに彼は、俺なんかよりよっぽど頭が良いくせに、

『将来? もう、考えるのが面倒くさいから』と、大学まで同じにした。

 その上、何度告白されても断るだけ。

「もったいない。可愛い子なのに。」

 と、俺が言っても、

「うん? 俺には必要ないんだよ。」

 と、返すだけだった。

 そう、彼には『こだわり』が無い。

 ご飯だって、食べられればいい。洋服だって、俺が選んだものを着る。

 そのくせ、何でもかんでも俺に聞く。

「ねぇ、これ、どうしたらいいと思う? どっちが、好き?」

「自分で決めなよ。それくらい。」

 と、毎回やり合うのに、何故かそういう時だけは、俺が決めるまで引かない。

 呆れている俺の横で、彼は、いつも嬉しそうに笑うのだ。


 ある日の事、課題を二人で仕上げていた。

 無事に仕上がって安心したのか、腹が減ったから何か作ってと言い出した。

 念の為、『何が、食べたい?』と聞いたら、案の定、『何でもいい』と言ってきた。

 溜息をつきつつ冷蔵庫を開けると、ビール以外に卵が三個に長ネギ、

 キムチのパック。

 そういえば、今日は多めにご飯を炊いておいたと思い出す。

 炊飯器のある棚では、ツナ缶を発見した。

 よし。ザ・男飯、チャーハンに決まり。

 フライパンから分けた皿二つ、テーブルに乗っけて、向い合せに食べ始める。

 顔を上げたら一瞬、ハムスターかと思った。

 飯で頬を膨らまし、ビールを飲む、彼。

 可愛い。思わず、ほほ笑む。

 幸せそうな笑顔に、ふと聞いてみた。

「相変わらず、全部俺任せ。本当に、こだわりが無いね。」

「こだわりなら、あるよ。こうして、この二人で居る事さ。」

「なに、それ。」

「だからさ、ずっと二人で居よう?

 お前とご飯食べたりして、笑ってたい。

 それが、俺のこだわり。」

 彼は、ぽかんと空いた口が塞がらない俺の頭を一撫でして、またビールを

 飲んでいる。

「それから、男兄弟の中で育ったからって、その『俺』って一人称やめてよ。

 見た目は男っぽくても、俺にとっては可愛い女の子なんだから。」

 その一言が、私に決心を促す。

「やっぱり、二人で喰う飯は美味いな。」

 絶対に、彼を離したくないと。

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