第57話 報告
初めて先名さんと加後さんに会った居酒屋なので、感慨深いものがある。
四人がけのテーブルで彼女は奥の席へ。俺はその右隣だ。あとの二人はまだ来ていない。
「なんだか懐かしいねー」
「そうだなぁ。俺が初めて先名さんと加後さんに会ったのもこの店なんだよな」
「あの時は私が急用で先に帰ったんだよね。ま、そのあと加後ちゃんとずいぶん楽しいことをしたみたいだけどねっ!」
「ねっ!」だけを強調して話す彼女。いかにも楽しげな言葉に聞こえるけど、例によって『怖い同島』になっていることを俺は瞬時に見抜く。要するに、「初対面の可愛い女の子にお姫様抱っこをするなんて、普通ありえないよねっ! バッカじゃないの!?」ということだ。
「楽しいことって、ただ加後さんにお姫様抱っこをしただけなんだけどな」
「それが普通じゃないって言ってんの。私にはしたことないのに」
「それくらいはいつだってするぞ。同島は俺のお姫様だからな」
「言ってて恥ずかしくない?」
「でも間違ってはないだろう? 俺は同島が好きなんだ」
「バッ……、バッカじゃないの!? こんなところで」
「人にバカとか言ったらダメじゃないか。それよりも同島は俺のことどう思ってるか聞かせてほしいな?」
「好きに決まってるじゃない! 誰よりも!」
「お、おぅ……。ありがとう」
予想以上の言葉が返ってきたので、俺はうろたえてしまった。慣れないことはするものじゃないな。
「あつあつカップルはこちらでーす」
不意に可愛い声が聞こえてきたので声のほうを見ると、先名さんと加後さんがテーブルに到着していた。
「フフッ、
そう言って二人とも席に着いた。俺の正面には加後さんが座り、その隣に先名さん。
「今日は同島さんと桜場くんから話があるということよね」
「えーっと、職場でも少し言いましたけど、私と桜場は付き合うことになりました」
「二人とも、おめでとう!」
「同島さん、おめでとうございます! 桜場さん、これでひとり寂しい楽しくない生活は卒業ですね!」
「加後さん、俺にだけ言ってることおかしくない?」
もちろん本気で言ってるわけじゃないことくらい分かっている。二人ともこころよく祝ってくれて、改めてこの三人と仲良くなれて本当に良かったなと思った。
そして一時間が経った。
「同島
むしろ加後さんはここからが平常運転だと言える。
「加後さん、少し飲み過ぎじゃないかしら?」
「先名
「んんっ……! もう! 今日はおめでたい席なんだから、そういうことしないの! えいっ!」
「あひゃあっ!」
「えいっ!」
「わひゃあっ!」
二連発じゃないですか。先名さん、なんで毎回「えいっ!」ってしちゃうんですかね。俺も止めませんけどね!
「ねえ桜場」
「どうした?」
「楽しいねっ! 二人ともこんなにお祝いしてくれて私、先名さんも加後ちゃんも本当に大好き!」
「そうだな! それは俺も同じだ」
こうして報告を終えて二人と別れた後、俺は彼女を車で送っている。
「なあ同島。最近の先名さん、職場でどんな感じ?」
「えっ? 特に変わりなく優しいよ」
「そうか、それならいいんだ」
「ただ最近は特に忙しくてね。仕事に加えて後輩のケアとか、いろいろ大変そうだよ」
先名さんのプライベートはよく知らないけど仕事の立場上、気兼ねなく頼れる人はいるのだろうかと、前から心配ではあったんだ。
「ね、提案なんだけど、私たち三人で先名さんに日頃の感謝を伝えるのはどうかな?」
「俺も先名さんのために、何かできないかと考えていたところなんだよ」
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