IF② 第3話 心配

 俺は先名さきなさんが住むマンションの駐車場で待っている。


 少し待つと、やっぱりみとれてしまう美人お姉さんが近づいて来ているのが見えた。


 淡い青のデニムパンツに白インナー、鮮やかなピンクのシャツで、大人っぽく可愛いといった印象だ。(俺基準)


 助手席に座ったと同時に、甘い匂いがふわっと広がる。匂いって大事だと思う。


「待たせてしまってごめんなさい。お迎えありがとう」


「いえいえ、俺が早く来ただけですから。それに先名さんとデートできるなら、いくらでも待ちますよ」


「もう! いきなりそんなこと言わないの」


 せっかくもらったチャンスだ。恥ずかしいとか言ってる場合じゃない。


 目的地までは先名さんセレクションのBGMと、何気ない会話で過ごした。


 先名さんは意外にもインドア派ということで、今日はスーパー銭湯で過ごす。温泉はもちろん、岩盤浴やサウナ、レストランにエステ、さらにはマンガまで。余裕で一日過ごせる。


 なので、ずっと一緒にいられるわけじゃない。当然温泉は別々だし、サウナもそうだろう。二人ともマンガを読み始めようものなら、会話なんてほぼ無いと思われる。


 到着して最初に楽しく昼食をとり、その後は和個室でまったりタイム。美人お姉さんと一緒の部屋にいるなんて、最高の時間だ。ちょっとした旅行の気分。


「先名さん、個室にも温泉がありますよ」


「一緒に入りたいの?」


「ぜひ! ……じゃなくて、なんでそうなるんですか」


 ずっとこんなやり取りもしていたいけど、今日は時間がないから、核心にせまることにする。


「先名さん、聞きたいことがあるんですけど」


「何かしら?」


「四人でスイーツ店に行って二人で話した時、先名さん俺に聞きましたよね? 『私が一人で平気だと思う?』って。それに『私はそんな強くないのよ。とっても寂しがり屋なの』とも言いました。俺には先名さんがツラそうに見えるんです。無理してませんか?」


「そうかしら? 私はいつも通りよ」


「俺は先名さんが心配なんです。俺のことが気になるようになったとまで言ってくれたのに、一緒にいる今もどこか遠慮がちに思えます。やっぱり俺じゃ力不足でしょうか」


「ううん、決してそんなことはないのよ。今日もね、本当はどうするか迷ったの。ごめんね、来ておいて言うことじゃないわよね」


 今日までの先名さんの言葉から俺が導き出した結論は、先名さんは同島どうじま加後かごさんに遠慮しているんじゃないかということだ。


 ものすごく自惚うぬぼれている考えかもしれないけど、もしそうなら、俺が本気で先名さんが好きだということを知ってもらいたい。


「俺としては来てくれただけでも嬉しいです。これは俺の自惚れだと分かってて、あえて言います。先名さんは同島と加後さんに遠慮してませんか?」


 俺がそう言うと、さっきまで目が合っていたのに先名さんが目をそらした。


「確かに同島も加後さんも魅力的で好きです。でもそれは人としての好きなんです。俺が女性として好きなのは——」


「待って! そこから先はダメ。ダメなの……」


 先名さんが慌てて俺の言葉を遮った。


 俺もハッとする。勢いで言ってしまうところだった。やっぱりまだまだ未熟だな。


「そろそろ温泉に行かない? まだまだ楽しまなくちゃね!」


 先名さんが明るく提案する。俺も冷静になるため同意した。


 温泉で汗を流した後は、館内着に着替えて岩盤浴へ。男女同じ部屋なので先名さんと一緒だ。時々水分補給のために、部屋の外へと出る。


 そこで偶然、先名さんとタイミングが一緒になった。岩盤浴で汗をかいた先名さんの髪が濡れ、肌に張りついている。一部分が超膨らんでいる館内着も濡れている。なんというか、非常にそそるものがある。岩盤浴は上下とも下着を着けないものだというが、果たして先名さんは……? 

 さらに、髪をアップしていることによって見える、濡れたうなじ。


(これはいかん、色気がありすぎる!)


 俺は再び岩盤浴をして、汗と変な欲を流した。


 夕食もここでとるつもりなので、再び個室でまったりタイム。


「あー、すっきりしたぁ!」


 そう言って、「うーん!」と伸びをする先名さん。いつもと違う可愛い雰囲気を出す。


「先名さん、可愛いですね」


「フフッ、もう何を言われても大丈夫よ」


「本当ですか? 先名さんは後輩思いで、みんなのことをよく見ていて、優しくて、尊敬できて、美人で、可愛い一面もあって、ほんとに魅力的です!」


「もう! 調子に乗らないの」


「大丈夫じゃないじゃないですか」


「やっぱり君、意地悪だな?」


 先名さんは困ったような表情でそう言った後、つぶやく。


「困ったなぁ……、やっぱり楽しいよ」


 その後の夕食でも俺はできる限り、先名さんに楽しんでもらおうと努めた。先名さんは本当に嬉しそうに楽しそうに、俺との時間を過ごしてくれた。


 そして夜になり帰ることに。先名さんが住むマンションまでは距離があるので、もう少し一緒にいられる。


 もう次は無いかもしれないので、俺は先名さんに告白をすることを決めている。

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