第20話 後輩と同期と作った

 俺が目を覚ますと、部屋には日差しが降り注いでいた。夜中に加後かごさんとデートの約束をしたはずだが、念のためスマホであのアプリの履歴を確認したところ、確かに履歴が残っている。夢ではなかったようだ。


 当の本人はというと、同島どうじまと一緒にまだ眠っているようだ。


 それよりも気になるのは、二人の寝姿だ。掛け布団がめくれて、二人の姿がハッキリと確認できる。二人は向かい合って眠っているのだが、加後さんが同島にまるで抱き枕かのように抱きついている。


 当然お互いの顔が近い。そして加後さんと同島のトップスの裾が少しめくれており、二人の腰回りの白い素肌が見えている。もうここまでくると、けしからんを通り越して尊ささえも感じてくる。


 誰もいないのでずっと眺めようかとも考えたが、さすがにそれはどうかと思ったので、Web小説を読んで二人が起きるのを待った。


桜場さくらば、おはよう」


 同島が目を覚ました。加後さんとの約束のことは、わざわざ言うことじゃないと判断した。


 加後さんも目を覚ましたので、朝食をとることになった。メニューのメインは目玉焼きらしい。まずは同島がササッと一人分を完成させた。


 すると加後さんが「あとは自分で作れますから、同島さんは休んでいてください」と、同島を気遣った。普通は同島が作る前に言うことだと思うけど。なので、俺も自分の分は自分で作ることになった。


「桜場、本当に大丈夫?」


「なんとかなるだろ」


 そうは言ったが、普通のカレーを作ろうとして、なぜかスープカレーが出来上がったことがある。味はもちろん激薄の激マズ。


 俺は卵を手に取り、軽く割ってからフライパンへ入れた。すると「あっ!」という同島の声が聞こえてきた。


 フライパンの上の卵の黄身が音も無く崩れていく。慌てた俺は菜箸でなんとか黄身を丸くしようと試みた。だけどそんなことは無理で、ただただ黄色と白が混ざり合う様を眺めることとなった。そして焦げた。


「きれいに作るなら、卵はボウルに移した方がいいよ。っていうか、私が作ったところ見たよね」


「そうですよ桜場さん。私がお手本を見せてあげます」


 加後さんはそう言うと、ボウルの中に卵を割って入れた。黄身がきれいな円を描いている。そして低い位置からそっとフライパンに投入した。きれいな目玉焼きの形になっている。

 なるほど、自分から作ると言い出すだけのことはある。正直少し意外だ。


「どうですか! 私だってできるんです」


「あのね加後ちゃん、フライパンに入れてから気がついたけど、殻も一緒に入ってるよ」


「えっ? あっ!? ひゃあ!」


 殻を取り除こうとする加後さん。みるみる形が崩れる目玉焼き。そして焦げた。


 きっと原因は他にもたくさんあるのだろう。



 昨日と同じように三人でローテーブルを囲んで朝食をとる。


「そういえばもうすぐ新入社員研修があるね」


 美しく出来上がった目玉焼きに箸をつけながら、同島が言った。


「もうそんな時期になったのか」


 俺は目玉焼きのような何かを食べながらそう返した。もちろん美味くはない。今考えると、黄身の形が崩れたからって、特に問題は無かったと思う。


「私は去年でしたねー。懐かしいです」


 かつて目玉焼きだったものを口にしながら、加後さんも会話に参加した。決して美味いものを食べている時の表情ではない。


「桜場、研修で配る資料はできてるの?」


「まあ大体はな。あとは各部署のリーダー以上の人にチェックしてもらうくらいだ」


「それなら先名さきなさんに見てもらうことになるんですか?」


「加後さんの部署だとそうなるかな」


 朝食を残さず食べた俺達はその後、解散をしてそれぞれの休日を過ごした。



 そして週明け。俺は資料をチェックしてもらうため、仕事中の先名さんのもとへ行くことになった。


 



 


 

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