第17話 同期の部屋でどうしてこうなった

「えっ!? 桜場さくらばさん、今日帰るんですか?」


 加後かごさんがそんなことを口走った。


「もちろん帰るけど、そんなに驚く?」


「だって当たり前のように同島どうじまさんの部屋に居ますからね!」


「君が泥酔してたのが原因なんだけどね!」


 つい大声を出してしまった。なにやら楽しい雰囲気になっている。『楽しい』といえば、同島の様子はどうだろう?

 俺は対面に座っている同島を見た。特に表情に変化は無いようで、ホッと胸を撫で下ろす。


(……待てよ。なぜ同島の様子を伺う必要がある?)


 同島の許可が必要なことなんて無いじゃないか。俺が勝手にそう思い込んでいただけだ。


「同島さんも桜場さんがいた方が楽しいですよね?」


「どうだろうね? さあ、カレーが冷めないうちに食べようか!」


 同島が強引にこの話題を終わらせた。さっきの加後さんの質問の答えを聞きたかったが、同島自身が答えをはぐらかしたので、それ以上は聞くことができなかった。


 テーブルの上にはカレーとサラダが並べられている。人参やジャガイモなどの定番の具が一口大に切られており、サラダを含めた彩りの良さも食欲増進に一役買っている。


 ツヤのある白米と、カレールーを一緒に口に運ぶ。まるで俺の好みを知っているかのような辛さ。辛すぎず甘すぎず、食が進む。つまりは美味い。


「美味い。やるな同島」


「やったぁ! ありがとう!」


 何気ない褒め言葉でも素直に喜んでくれる同島。なんだかこっちまで嬉しくなる。


 食事を終えた俺は、ここでの用事が済んだので帰ることにした。外はすっかり暗くなっている。


「えっ!? 本当に帰るんですか?」


「もちろん」


「せっかくの機会だから、桜場さんも泊まりましょうよ。もっとお話しましょう!」


「いやいや、そういうわけにはいかないよ」


「どうしても?」


「どうしても」


「ダメ?」


「ダメ」


「……お願い」


「そんな顔したってダメ。というか、そんな簡単に言っていいことじゃないと思うよ」


「だって桜場さんなら変なことしませんよね?」


「加後ちゃん、それについては私も大丈夫だと思ってるよ」


 なんで俺はそんなに信用があるのだろう。ただ単に男として見られていないのだろうか。


「もし仮に泊まるとしても俺、何の準備もしてないよ。それは加後さんも一緒なんじゃない?」


「私なら大丈夫ですよ。いつもここに置いてますから」


「加後ちゃんは普段から私の家に泊まることが多いんだよ」


 この二人そんなにも仲が良いのか。まあ、女の子同士だから成り立つんだろうな。


「ねっ、桜場さん、どうですか?」


「帰る」


「……やだ」


「やだって……」


 もしかして加後さんはまだ酔いがさめていないんじゃないのか?


「あ、そうだ。俺が泊まるといろいろな物が足りなくなるんじゃないかな。例えば布団とか」


「それなら桜場は普段加後ちゃんが使っている布団を使って、私と加後ちゃんはベッドで寝るのはどう?」


「なんで同島まで乗り気なんだ?」


「なんだか楽しくなっちゃって」


「桜場さん、どうですか?」


 ここまで言われると、帰るほうが情けないような気がする。


「分かった、今日は泊めてもらおうかな」


 男として嬉しいような、悲しいような、複雑な気分だ。

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