人物画

筆開紙閉

フルート奏者についていくつか

 時間と空間の外、因果の地平にて。全ての色を混ぜたような空間。つまりは全く黒に近しい。太鼓やフルート等、いくつもの旋律が全てのある造物主たる混沌に捧げられている。その楽団の中で彼はフルート奏者の任に就いていた。フルートの音色は彼自身についてである。

 彼は自身のフルートの音色によって、ついに自分自身を再生させた。それは到底起こりえぬ悪夢だった。自由意志を取り戻した彼はフルートを捨てた。混沌の眠りを彩るために奏でるフルートは彼に無かった。彼は夢を見ることにした。終わったはずの夢を。

 終わったはずの夢の続きを見るとは創造行為。夢の創造とは造物主にしか許さぬ偉業。

 偉業を、フルート奏者の如き小さく矮小な彼に可能であるか。

 世界とは混沌の夢の中に浮かぶ泡沫である。造物主に捧げられる音楽とは泡沫の表面の色彩に過ぎない。

 混沌にはべり、混沌の業を変わりゆく色彩に過ぎぬフルート奏者如きが可能であるか。

 しかし、夢を壊し、作り直すことは?

 彼は夢の外側から夢の中に手を入れた。

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