第71話 二子石高校VS沢江蕨高校 ③
前半終了の笛が鳴る。俺は選手たちの様子を確認しながら、頭の中で状況を整理していた。
今のところ、4-3-1-2のフォーメーションは上手く機能している。
月桃や菅原といったサイドの選手たちが得点に絡む動きが出来ており、中盤起用を行っている竜馬からのパスによって得点も創出できた。守備時にはスタミナのある、志保が前線からボランチまで戻り守備に紛争する場面もあり、硬さもある。
解決するべき点は、島石の左サイドだ。あそこから崩され続けると、得点を奪われる可能性を生むだろう。どうするべきだろうか……。
そんな思考に没頭していると、不意に菅原の声が耳に飛び込んできた。
「えへへ~っ♪ 今日、得点しちゃったぁ~~!」
「がはははははっ! めでたいのぅ!!」
見ると、はしゃぐ菅原に対して南沢たちが喜びをあらわにする場面が見られた。仲が良い二人の姿を見て、思わず口角が緩んだ。
――それじゃダメだ。
俺は二子石を全国で勝てるチームにしないといけないのだ。
そのためには、甘えを捨てるしかないのだ。
甘えを捨てて、鬼になれ。
リスクを切り捨てて、勝てるようにしろ。
「皆、集まってくれ」
俺は選手たちを招集し、指示を出す。
「後半戦のフォーメーションについて話す。後半戦は、次のメンバーで行くぞ」
二子石のフォーメーション:3-2-4-1
センターフォワード:南沢
トップ下:三好 志保
桜木(キャプテン)
右サイドハーフ:長島
左サイドハーフ:菅原
セントラルミッドフィルダー:月桃
ディフェンシブミッドフィルダー:三好 竜馬
センターバック:志満
相馬
島石
ゴールキーパー:栗林
「後半は3-2-4-1で行く。前半の4-3-1-2は、攻撃面では上手く機能していたが、守備が甘かった。その原因は、サイドの役割が明確化出来なかったことにある。後半は、サイドの選手が攻守に奮闘してほしい」
「なっほどなぁ。つまり、アタシらが頑張ればいいってことだな!」
「そういうことだ」
俺は拳を合わせる長島を見ながら首を縦に振る。長島は人一倍の根性と、キック力を持つ。ウィングとして機能するなら、これほど頼もしい見方はいない。
「……私、守備苦手ですけど……大丈夫ですかね?」
「それは大丈夫だ。そのためにスリーバックを組んだんだからな。後ろ三人に任せてプレーをすればいい。お前は、自分が出せるものを出してくれ」
「――はいっ! わかりましたっ!」
菅原が元気よく敬礼するのを見てから、俺は質問がないか問う。
最初に口を開いたのは、桜木だ。
「私と志保ちゃんのダブルトップ下ってことだよね? やりやすそうだけど、どっちが攻撃の起点になるかで迷うかも」
「それは、試合の状況に応じて決めてくれ。志保は視野が広いから、パスで攻撃を組み立てることが得意だ。一方で桜木、お前はシュート力がある。相手が中央を固めてきたら、志保が下がってお前が前に出る形を取ればいい。まぁ、あれだ。なかよ~くやってくれよ? コースが重なることはないようにな」
「了解! じゃあ、志保ちゃんと連携しながらやってみるね!」
桜木は自信満々に笑い、志保も小さく微笑んで応えた。
「じゃ、じゃあ私からも……」
次に手を挙げたのは、月桃だ。
「私、前半戦であまり動けていませんでした。後半戦出られるなら、もちろん頑張りますけれど……その、相手選手から抜かれてしまってもよいんですか?」
「あぁ。それはいい。何せ、相手は高校男子だからな。存分に負けてこい」
「…………うぅ」
俺の言葉に月桃がどこか不安そうな顔を見せる。
そんな彼女に対し、俺はこう返答する。
「月桃、セントラルでのポジションは少し負担が大きいが、動きの自由度が高くなる分、相手の意表を突ける場面も増える。どんな状況でも自分のスタイルを貫いてくれればいいからな」
「……わかりました」
彼女は一応返事を返してくれた。
不安げだが、なんとかなるだろう。途中交代も視野に入れてるしな。
次に、島石に目をやる。
「島石、今回お前がやるのは右センターバックだ。中央の志満先輩に合わせて、ディフェンスラインを整えられるようにしてくれ」
「はい! わかりました!」
島石はまっすぐと俺の目を見ながら返事する。少しだけ不安があったものの、まぁこの様子を見る限り問題ないだろう。
そんな風に周りを見ていると、相手選手がピッチに入り始める。
……霧原さんがいる気がするのは、気のせいだろうか。
「まぁ、とにかく。後半戦はさっき伝えた布陣でやる。控え選手たちも出していく。ちゃんと、準備しとけよ! 特に……森川。ゼリー飲みすぎるなよ?」
俺はどこから拝借したのかわからない飲料ゼリー三袋目に手を付けかけている彼女へちょっと釘を刺す。
「べ、別に飲みませんよぉ~~~~」
「……なら、いいが。走れなくなるとかはやめてな?」
「わ、わかっています!」
場の雰囲気がどこか和んだところで、俺は選手たちへ声をかける。
「後半は、ここが勝負どころだ。守備を安定させつつ、攻撃のチャンスを見逃すな。特に南沢、桜木、志保、お前たちが鍵を握る。相手のペースに飲まれる前に、試合の主導権を取り返すぞ」
「おーっ!」と一斉に声が上がる。選手たちの表情は、前半とは違う引き締まったものになっていた。
俺は腕時計をちらりと確認し、ピッチへ向かう彼らの背中を見送る。緊張感の中にも期待が入り混じる、あの独特な感覚が胸を満たしていた。
(この試合に勝てるかどうかで、全国レベルになれるか決まる。頼むぞ、みんな)
後半戦の笛が、高らかに鳴り響いた。
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