第47話 次会うときは、全国で

 その後に彼女が語ってくれた話は、Mr.Jから聞いた話と同じだが、目的が異なっていた。


 俺をサッカー界から追放するのではなく、斉京学園に入学させないことが目的だったのだ。選手生命を不当に奪わせないために素行不良という情報を生み出すことで、琴音の父がオファーを取り消すように仕向けたのだ。


 完璧主義者の父が俺を完全にサッカー界から追放しようとしたのは、素行不良もあるだろうがそれ以上に自らのオファーを蹴ったという事実に苛立ったのだろう。


 そこまで分かってくれば、俺でも何となく状況が紐解ける。


 悪質スカウトから話を聞き承諾したように見える写真を撮ったことも。

 俺が不快感を覚えるような言葉を口にしたことをスカウトに言わせたのも。


 全て、俺を守るために彼女が苦しんで選択した結果だったのだと。


「…………琴音。お前は、ずっと前から俺を守ってくれたんだな」

「……信用、してくれるの?」

「当たり前じゃないか」

「……私は、あなたのことを裏切ったのに?」

「たった一回裏切るぐらいがなんだよ。何度助けられたと思ってるんだ」


 彼女と出会わなければ、俺は推薦すらもらえず怪我をしていただろう。

 彼女と出会わなければ、他人とかかわりあうのが楽しいかわからなかっただろう。

 彼女と出会わなければ、俺はこうしてコーチ活動に精を出さなかっただろう。


 彼女と出会えたから――俺はこうやって、真の意味で二本足で立てている。

 そんな彼女が俺のためを思って裏切ったところで、怒る意味なんてないだろう。


「けどな、琴音。……申し訳ないが、お前の父さんだけは許せないよ」


 俺が真に怒るべき相手は……琴音の父親だ。

 俺をバーターとして入学させようとした挙句、海外選手の遊び道具として俺の選手生命を破壊しようとしてきたのだ。挙句に他高校へ入学する権利すら奪ったのだから許せるわけがなかった。


「琴音には何十回、何百回感謝してもしきれないほどの恩義があるけどお前の父さんがした行為だけはどうしても許せないんだ。だから俺は……お前のお父さんが作った斉京学園に勝てるレベルまで、チームを強くするつもりだ」

「……え!? 斉京学園に勝てるようにするの!? その、目途は立ってるの?」

「……まだめどはない。主力メンバーは斉京学園三軍に入れるぐらいの実力はあるが他メンバーはレベルが高くない。今の状態で戦えば三軍に二桁得点差をつけられる位はあるだろう。けれど……諦めたらそこで成長は止まる。本当に重要なのは、暗闇の道でも必死に進み続ける意思だって思うんだ」

「――そうね。あなたはそういう人だったわね」


 琴音は下がっていた口角を少し上げ朗らかにほほ笑む。


「豆芝がチーム強化を成功して、もし勝ち上がってこれたら……次に会うのは、全国大会でしょうね」

「全国か……遠くて硬い壁だな。けれど、諦める理由にはならねぇ」

「そうね。あなたが頑張り続けられる人間だものね」


 琴音はすっとベンチから立ち上がる。


「それじゃ豆芝。また今度機会があったら会いましょ。次は……全国で」


 彼女が嬉しそうに微笑みながらベンチに座る俺へグーを出す。


「あぁ、そうだな。お互いに、全国で会おう」


 俺は琴音とグータッチを交わしてから、同じようにベンチを立った。

 ギラギラとひかる太陽が、俺たちを照らし続けるのだった。

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