第6話 祈願乙女
その後、しずくねぇに案内されて奥へ進んだ。
和風の屋敷みたいな場所だけど、左右に襖が無数にあってちょっと不気味だ。
ただ、色が少しづつ違う。
右はオレンジで、左は青色。
こんな色の襖は見たことが無い。
「下手に襖は開けんなよ、誰の部屋になってるか分からないし……」
「分からないし、何だよ」
「ここは男子禁制だ」
男子禁制?
いやいや、俺は健全な男なんだけど?
「ヴァルキューレ、何でコイツが登録できたんだ? 最初に性別確認とかあんだろうがよ。それに男だと適性が無いとかうまくリンクできないとかあったような記憶があるんだけど」
「私は拡張パーツですので、完全な新規登録についてあまりプログラムされていません。まだ、ゆいにゃん様が着ることを前提として作られましたので、兄妹であるマスターとのリンクは上手くいったのだと思います。まぁ、私のような服を男性が着るとは開発者も思わなかったのだと推測しますが」
「あぁ……だから」
「その冷たい目やめろ。つーか俺を女物の服で着せ替え人形みたいにした奴が何いってんだ」
「おま……何年前の話してんだよ」
「去年までずっとだったろうが! 高校の制服が届いたからって中3だった俺に着せたりして……恥ずかしかったんだぞ!」
「それが今や自分から着る変態か。……こりゃモテないだろうな」
ほっとけ!
いいし、ネットだと大人気だもんね!
しばらく歩くと、しずくねぇが「ここだ」って言って襖を開けた。
襖の色はピンク。
変な所で女の子出すよなぁ、この人。
「相変わらずピンク好きなんだな」
「女物の服着るのが好きな男より全然マシだろ」
中は……え、しずくねぇの部屋だ。
さっきまで訳わからん場所にいたのに……窓の外を見ると見慣れたしずくねぇの部屋から見える景色が広がってる。
「乙女は何て言うんだろ、集会所みたいな所なんだよ。それで、自分の部屋を与えられたらそこから自分の家に飛べるようになるんだ。お前が登録されてるのか分かんないけど、まぁそのうちだな」
妹が何故巻き込まれたのかを知りたい、その為に司令とかいう奴に会いに行くつもりだった。
だが、俺には戦う理由ができた。
俺が戦えば妹は無事。
それがわかった以上、別に聞きたい事は無い。
強いて言うなら、何故妹が参加したのかぐらいかな。
「さてと、多分お前は乙女の一員として登録されるから、その時までに決めなきゃいけない事がある」
「決めなきゃいけない事? コールサインならもう決まってるけど」
「願いだよ」
願い?
何かいきなりメルヘンな言葉が出てきたなおい。
「願いって……どゆこと?」
「乙女で戦う以上危険は避けられない。でも、その分見返りがあるんだよ、フェイスレスを既定の数倒せば願いを叶えてもらえる」
「ほぇー、つまり妹はその願いを叶えてもらう為に自主的に参加したっぽいな。……ちなみに、どんなのでもいいの?」
「別にいいけど、大きすぎる願いだとフェイスレスを倒す規定の数、私達はノルマって呼んでるけどさ、ノルマがデカすぎて叶えられない場合が殆どだ。んで、どんな願いでもいいけど出来ない事が二つある」
しずくねぇが言うには。
一つ、願いを叶えてくれるのは国であり、魔法や奇跡では無い。
だから、死人を生き返らせるとか、タイムスリップとか現実に不可能な事は願いに設定できない。
もう一つは、他人を殺すような願いは叶えられないし設定も出来ないという物だ。
「ふーん、まぁどっちも興味ないからいいけど……例えば金とかでもいいのか?」
「金でも宝石でもいいよ、ただ金額には気を付けて設定しないとノルマしんどいからな」
成る程。
小遣い稼いで妹も守れる。
もしかして参加してよかったのでは……?
「ちなみにさ、しずくねぇはどんな願いの為に乙女にいるんだよ」
「……私の事はいいからさっさと決めとけよ、このままだとボランティアになるからな」
命かけて戦うのにボランティア!?
そ、それは困る。
うーん、何か無いか。
金は……欲しいけど、命と引き換えかもしれないって考えると少し違う気がする。
ならフォロワーがいっぱい欲しいとか?
……いや命より軽いな。
「うーん」
「自分の心に素直に言えばいい。どんな願いでもいいんだから」
俺が望む物……。
あ、一つあるわ。
「俺より可愛い彼女が欲しい」
「ゲッホ! ゲホゲホ」
いつからだったか、俺は俺より可愛くない女子に何も感じなくなっていた。
だからと言って男が好きな訳じゃないし、性欲だってある。
だけど、本当に同年代の女子に可愛いとかは思えなくて、俺より可愛くないって考えるようになってた。
「こんな願いでもいいのか?」
「お前……あー、まぁ……多分大丈夫」
よし。
彼女を手に入れて平和を守り、妹を助けてヴァルキューレって可愛い服も手に入れた。
完璧、完璧だ。
「乙女で願いを叶える為にはとにかくポイントがいる。例えばフェイスレス一体で1ポイントみたいな感じで美装に記録されていくんだが、このポイントは自分のノルマを達成していなくても使える。例えば既に稼いだポイントで交換できる範囲のお金にするとかな、まぁ考えて使うか貯めるかしろって事」
可愛い彼女が欲しいって願いのノルマはどんなもんだろ。
やっぱり俺より可愛いってなるとかなり高いんだろうな……もしかして百体倒せとか言われたりすんのかな。
「よし! 頑張るか!」
「はいはい頑張れ頑張れ」
しずくねぇは俺に背を向けて、ベッドに腰掛けた。
そういや……。
「久しぶりにしずくねぇの部屋に来たけどさ、相変わらず可愛い物ばっかだよなー。あとめちゃめちゃ女の子みたいな匂いがする」
頭に拳が飛んできた。
「お、お前女の子の前で女の子みたいな匂いがするって言うな! ハァ……私じゃなかったらさっきの一言で嫌われてたぞ」
「そんなんで嫌われる程。しずくねぇと浅い仲じゃねぇと信じてるからこんなボケがかませんだよ」
「……ハァ」
なんだよそのため息は!
「とにかく、今日は帰ったほうがいい」
「お茶とケーキを貰ってないのに?」
「時間があれば焼いてやってもいいけど……多分お前が持たないからさ」
「持たない?」
「美装を使うってのは体に結構な負担なんだ、だからお前そろそろ睡魔でぶっ倒れるぞ」
「まさか、そんな事ある訳」
あれ。
言われてみたら体がめちゃくちゃダルい。
意識もフラフラしてくるし、確かに眠い。
あ、これやばいかも。
「しずくねぇ……眠い」
「やっぱりな、だから今日は家に帰って」
「ここで寝る。ベッド借りるから」
しずくねぇの隣までフラフラとした足取りで歩いて、そのままベッドに倒れ込む。
疲れた。
今まで感じてきたどんな疲労とも違う、とにかく頭が回らなくなっている。
「ちょ! お前勝手にベッド使おうとすんな!」
「このベッドに枕。しずくねぇの匂いがして落ち着く……おやすみ」
「おま………」
目が覚めた時には、もう夜になっていた。
「勝手に人のベッド使いやがってこのバカゆいと!」
そして、制服スク水で家から叩き出された。
怒っているように見えたが、俺が自然と起きるまで彼女は起こさず、そっと寝かせていてくれていた。
優しい人だ、あの人は何も変わってない。
さてと……。
「ヴァルキューレ、人に見られないようにして家に戻るぞ。このままだと確実に通報される」
「はい、マスター。不可視化コーティングを起動します、自宅まで移動も了解しました、到着まで一分です」
商店街に向かった時と同じように俺は空を飛び、明けてあった自分の部屋の窓から部屋に音を立てずにそっと戻り、ヴァルキューレを脱いで自分のベッドに横になった。
「……やっぱり、俺の枕とか布団ならは女の子の匂いはしないよな。いくら可愛くてもこれは無理か」
なーんて言ってる間にまた眠くなり、俺は瞼を閉じ、いつも通り眠った。
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