第20話 ムガンビナへ

リンヤはずっと泣いていた。


誰かを慰めるのは初めてで、どうすればいいか分からなくなってオドオドしている俺を見たトウマが、

「そのままでいてあげて。」

と小声で言った。


少しするとリンヤは泣き止んで俺の肩から顔を上げた。

同時に俺の背中にまわっていた手も緩んで、俺は椅子に座り直した。


「話してくれてありがとう。リンヤくん。」


リンヤは声を出さず静かに頷いた。

寒色系の髪と目からは目立ってしまうほど目を赤く腫らしていた。


「2人とも。話しに付き合ってくれてありがとな…っ。」


「こんな街でも…良いところはいっぱいあるから、案内してやんよ…。」


そういうとリンヤはベッドから立って数歩先の玄関らしき場所へと歩み始めた。


俺たち2人もそれに続くように外に出る。

ホコリのような…カビのような…なんとも言えない匂いがする道は、避けれるものなら避けたいほどだった。


「トウマ…さん。」

「ん…?どうしたの?リンヤくん。」


リンヤは背中を向けたまま、

「トウマさんは…死ぬつもり…なんですか。」

と一言。トウマに言い放った。


トウマは立ち止まって少し考えたあとに、

「自殺願望はないからね…できれば死にたくないよ。」

と笑ってみせた。


「明日もし…王宮を敵に回すようなことをするんなら、おれは軍の一員としておまえを殺しにいかなきゃいけなくなる。でもおまえが本当に死にたくないなら少しくらい手を貸すことならできる…」


「…。」


「トウマ、リンヤに手伝ってもらえば兵の配置くらいは――」


「いいや。大丈夫だよリンヤくん。」


なぜ断ったのか…俺には理由なんてさっぱりだ。


トウマは理由もなくこんな美味しい話を蹴ったりはしない。多分先を見据えてのことだろうと思った。そう思うことにした。


狭い道を真っ直ぐ歩いていると、やがて道に光が差し込むようになっていった。


裏通りだろうか。人々の賑やかな声が小さく聞こえてきた。

笑い声や話し声…そして子どもたちの遊ぶ楽しそうな声。


そのすべてが、家を失ったスラムの人々を見たのが信じられないほど平穏で。


ほのかに響く声を聞きながら裏通りを曲がり、奥まで入っていく。

まるで迷路のように道はうねり、王宮の聳え立つムガンビナが見えなければ方角がわからなくなってしまいそうだった。


そのあとすぐに左へ曲がると長く急な坂が一筋、ムガンビナへ続くように引かれていた。


「この道はムガンビナの麓まで行ける最短コースなんだ。正式な道で行くと警備がいたりしてさ、いると面倒なんだろ。」


パチンと軽くウィンクをしてリンヤは坂を登り始めた。


「気遣いありがとうリンヤくん。それにしても…公国にはこんな目立った山はないから新鮮なんだよね〜。」


「俺も小さい頃からずっと見てきたけど、登んのは初めてだな。」


各々違う気持ちを味わいながら山へ続く道を歩いた。


地面はタイル…のようなもので、ところどころひび割れていたり欠けたりしていた。


歩きにくい…と言われればそうだが…こんな感じの道は訓練兵の時も走り込みの訓練で走っていたから、特に苦ではなかった。

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