第3話 D級ダンジョン2

壁や床を隈なく探していると新庄が「あった!ここだ!」と叫んだ。


全員が新庄の元に集まると仕掛けを起動させた。


ギイイイイッー


壁が動く。


人一人通れる隙間が現れる。


全員がゴクッと唾を呑んだ。


「当たりだ……俺達は当たりを引いたんだ!」


A級ハンター風間の自信たっぷりの言葉に、不安が少しずつ消え去り興奮に変わっていく。


どれだけ凄い宝が眠っているのだろうか今から楽しみで仕方なかった。


「行こう」


全員欲に目が眩み、他のグループに宝を横取りされないよう早足で前へ進んだ。


'待っててくれ、親父。必ず金をを貯めて大手ギルドに依頼するから!'


養父の捜索依頼料のためにも絶対に宝を手に入れなければならない。





「……宝はどこだ?」


隙間道を歩くこと数分。


ついた場所は何もないただの突き当たりだった。


「ねぇ、これなんて書いてあるか読める?」


深月が壁に書いてある文字を見つけ指をさす。


「初めて見る文字だ。誰か読めるやついるか?」


風間が全員に尋ねるも誰も読めないので無言になる。


「クソッ!これがきっと宝のありかを示しているはずなのに!」


風間は壁を殴る。


「どうします?戻りますか?」


町田はこれ以上ここにいても意味がないと思い風間にそう言ったのだが、風間はどうしても宝が諦めきれず首を横に振ってこう言った。


「いや、もう少しだけ探そう。せっかくここまで来たのにすぐに諦めるのはもったいないだろ」


「たしかにそうですね。手がかりがないか隈なく探します」


風間の言葉にその通りだと思った町田は部屋の中に仕掛けがないか探す。


「どうにかして解けないものか」


風間は壁に書かれた文字を睨みつける。


実も宝が欲しいので部屋に仕掛けがないか隈なく探していると、上から小さい石が落ちてきて頭に当たる。


「イタッ!何だよ、もう」


文句を言いながら上を見ると絵が描かれてあった。


その絵は人をおぶって運んでいたり、たった一人の人を大勢が平伏していたり、一人の人間の後ろに太陽のような絵が描かれていたりと全く関係ない絵が沢山描かれてあった。


「あの!」


実が大きな声を出すと風間が一番に反応した。


「なんだ!どうした!何か見つけたのか!」


風間は実に詰め寄る。


目が血走っていて実は恐怖を感じながら天井を指さす。


「あの、あれってもしかしたら何か意味があるんじゃないかと思って……」


実が指さした天井を全員が見る。


「絵?」


深月が首を傾げる。


「絵だな。何か意味があるのは間違いないが、こうもバラバラの絵だと何を伝えたいのかわからないな」


新庄は一人の人間に跪き忠誠を誓っている絵を見て呟く。


「そうね。でも、文字よりは絵の方が解ける可能性は高いわ。お手柄ね、実君」


藤里に褒められ実は喜ぶ。


「たしかに文字よりは絵の方が解きやすいですけど、それでもこんな意味のわからない絵じゃ大した役には立たないですよ」


深月は自分が見つけた文字より実が見つけた絵の方が褒められるのが面白くない。


自分のときは褒めなかったくせに、と藤里を睨む。


「まぁまぁ、落ち着いてください。二つの手がかりを見つけたんですから宝を見つけやすくなったと思いましょう」


深月のせいで空気が悪くなったのを和らげようと町田が仲裁に入る。


「ねぇ、喧嘩なら後でやってくんない。今僕達はダンジョンの中にいるだよ。モンスターに一体もあってないから忘れてるかもしれないけど、しょうもない喧嘩のせいで危険に晒されるのは嫌なんだけど」


言い争いをする二人に苛立った口調で後藤が言う。


せっかく町田のお陰で空気が和らいだのに、後藤の言葉でさっきよりも空気が悪くなる。


「皆さん、落ち着いてください。一旦ここから出ませんか?」


実は見ていられず仲裁に入る。


ここに来てから皆の態度がおかしくなった。


実はここにいることが原因ではと思い一旦出ることを提案したが、風間はそれを許さなかった。


「駄目だ!今ここを出たら他の連中に取られるかもしれないんだぞ!そんなの絶対に認められない!」


薬でもしているのかと疑うほど完全に目がイってる。


これ以上ここにいるのはまずい。


そう思った瞬間、急に壁や地面が動き出した。


全員戦闘体制に入り何が起きても対応できるように構えた。


数秒で揺れがおさまった。


「これで終わりか?」


新庄が呟いたのと同時にドンッと物凄い音がした。


「なに?何がおきたの!?」


深月が「もう嫌だ!帰りたい!」と泣き叫ぶ。


「おい!あれをみろ!」


町田が叫ぶ。


全員町田が見ている方に視線を向けると目にした光景に驚いて言葉を失う。


'地面が消えた……'


さっきまで立っていた場所の地面が綺麗に消えていた。


風間が近くにあった小石を消えた地面の穴に向かって投げる。


小石が地面に当たったのなら音が聞こえるが、五分立っても音は聞こえず相当深い崖になっていると全員が悟る。


ここから落ちたら絶対に助からない。


もう宝など諦めて帰ろうと全員が思って来た道を戻ろうとしたが、道がなくなっていた。


「え?もしかして私達閉じ込められたの?」


深月はもう助からないと悟り絶望する。


「お前のせいだ!お前のせいでこうなったんだ!」


後藤は風間に掴みかかる。


さっき、実が一旦出ようと言ったとき止めたのが風間だったからだ。


だが、風間を責めることは誰にもできない。


嫌なら引き返せばよかったが、全員宝が欲しくて引き返さなかったのだ。


自業自得であって風間だけの責任ではない。


「後藤さん。落ち着いてください。今はこんなことしている場合ではありません。一刻も早く脱出する道を探さないといけません」


実が慌てて止めに入るも後藤の耳には届かず風間を殴ろうとした。


新庄が仲間割れはまずいと思って止めに入ろうとしたが、その前に風間が後藤を殴った。


「いい加減にしてもらえないか。嫌ならさっき帰ればよかっただろう。そうしなかったのは宝が欲しかったからだろう。俺が悪いみたいに言わないでもらいたい」


風間は町田を蔑むような目で見る。


'たしかに風間さんの言う通りだが、言い方があるだろう……'


実は仲間割れもし空気もさらに悪くなった状況に頭が痛くなる。


これからどうすればいいんだ?


リーダーが風間である以上、決定権は風間にある。


だが、いまの風間に誰も従いたいとは思わない。


実はチラッと風間をみる。


何もしていないのに肩で息をしている。


全力疾走をしたみたいな息切れに違和感を覚える。


'本当に早くここから出ないとまずいな'


実がそう思った、その時だった。


頭の中に直接語りかけてくる男の声が聞こえてきた。



『欲に塗れた愚かな者達よ。我はここに住む者だ。今から我とゲームをしよう。我の意思を受け継げれば褒美をやろう』



'ゲーム?褒美?どういうつもりだ?こいつは何が目的なんだ?'


声の主の目的が理解できない。


冷静に判断しようと声の主の言葉を頭で繰り返していると深月が声の主に向かって泣き叫ぶようにこう言った。


「いい加減にしてよ!ゲームなんていいからさっさとだして!!」


「そうだ!僕達はゲームなんてするつもりはない!さっさとここから出せ!」


深月に続くように後藤も叫ぶ。



『黙れ!お前達はダンジョンに入ったんだ。命の危険は承知のはずだ。ここでは我がルール。ルールを破れば待つのは死。やらないと言うのならお前達はここで死ね』



声の主は冷たい声で言い放つ。


その瞬間、実達がいるところと反対側の壁の一部が光った。


その光は深月と後藤に照準を合わせていた。


実は何か嫌な予感がした。


「二人共その場から離れて!」


実が叫んだと同時に光っていた壁から光線が出た。


ゴォォォォンーッ!


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