第9話四季神翔子のおもてなしデート?前編
「やっぱり緊張するなー」
そうして迎えた週末、俺は集合時間の40分以上前には駅前広場についてしまっていた。
「流石に早すぎたな」
俺は周辺に人がいないことを確認すると、腕につけた通信端末を起動する。充電はどうしたんだと思われるかもしれないが、こっちの時代に来た初日、一か八かとワイヤレス充電器に乗せたところ、普通に充電出来たのだ。俺はホーム画面の上に表示された時間を確認する。時刻は9時30分を指している。集合時間まではまだ30分もある。どうやって時間を潰そうか、、、
「す、すいません!お待たせしました」
しかし、俺のそんな悩みは
「い、いや、全然待ってないよ。と言うか、思ったより早かったくらいだ。まだ集合時間まで30分はあるし」
そんな会話を交わしつつ、俺は彼女を見る
清潔感のある白色のシャツに、正面にリボンがあしらわれたグレーのボレロカーディガンで俺の前に立つ四季神さんは、その整った顔立ちもあって周囲から受ける視線も多い。
「に、似合ってるよ!とか言ったほうがいい、、、?」
「そ、そういうのは自発的に、さり気なく言われるから良いんです!!」
さくらさんはむくれた表情をして見せた。確かに、言われてみればそうだ。
「で、でも、ほんとに似合ってるよ」
「そ、それは良かったです、、、」
四季神さんは俯きがちに言った。長い黒髪の間から覗かせる耳が真っ赤になっている。
「そ、それじゃあ行きましょうかっ!!」
四季神さんは自身の照れを隠すように言った。
俺はその半歩後を付いていく。
今日はどんな1日になるのだろうか?
● ● ● ●
「そ、それで、どこに行きましょうか、、、」
「あ、決まってないんだ」
「す、すいません。お昼だけは決まってるんですが、、、」
四季神さんは申し訳無さそうな表情になってしまった。
「い、いや、別に問題はないよ!!ど、どこ行こうか?とりあえずそこのミラクルモール入る?」
「はい!そうしましょう!」
俺が取り敢えず無難な行き先を提案すると、四季神さんはどうしてか一気に明るい表情を取り戻した。
「やっぱり桜木さんは周りのことをよく気にかけてくれますねっ」
四季神さんはそう言って笑った。
その笑顔はまるで天使の微笑みのようで、俺は不覚にもドキリとしたのだった。
● ● ● ●
「ぐぬぬ、、、なかなか取れません、、、」
俺たちはモールに入り、取り敢えず3階にあるゲームセンターを訪れていた。この時代ではまだ人口6万人台の町のゲームセンターにしてはそれなりの規模で、クレーンゲームからアーケードゲームまで、様々なゲームが並んでいる。今は四季神さんのお目に止まった、サメのぬいぐるみのクレーンゲームに挑戦しているのだが、かなりの苦戦を強いられているところだった。
「四季神さん、こういうのにはちょっとした「コツ」があるんですよ」
「コツ、、、ですか?」
四季神さんがごくりと唾を飲む。
「そう、コツ。」
「み、見せてもらえますか?」
「もちろん」
そう言って俺はクレーンゲームの前に立ち100円を投入する。
俺は3本爪のアームの先に滑り止めがついていることを確認し、アームをぬいぐるみから離した位置に移動させて降下ボタンを押す。
四季神さんはその一連の行為が、操作に失敗したように見えたようで、
「ぜんぜん外してますっ!」
と怒られてしまった。
「いいや、ここからだ」
俺が自信ありげにそう言うと、疑うような表情で、アームの行方を見つめ始めた。
アームはぬいぐるみのタグの間にするりと滑り込むと、アームの先端に取り付けられた滑り止めにタグが引っかかり、そのまま景品口までやってくる。アームが開くと、引っかかっていたタグがアームから離れ、景品口に落下した。
「と、取れました!!すごいです桜木さん!!」
四季神さんは景品口からぬいぐるみを取り出すと、ぬいぐるみを正面で抱きかかえ、まぶしいほどの笑顔と共にこちらに見せてきた。
「そ、それは良かった、、、」
普段の四季神さんには見られない、ハイテンションで、どこか子供っぽさを感じる彼女の一面に、俺は胸が熱くなるのを感じた。これもギャップ萌えという奴なのだろうか、、、
「あ、もうお昼になりますね!朝にも言いましたけど、お昼の予定だけは決めてあるんです!ついてきてもらってもいいですか?」
もうそんな時間だっけ。四季神さんにそう言われて時計を確認すべく、腕につけた通信端末を起動しようとして、、、やめた。
――「いやいや、別に大した話では、、、四季神さんは俺が未来から来たって知ってるんだから、多少は話すだろ」
――「でも、今回みたいに周りに聞かれたら、桜木くんだって困るんじゃないの?」
それは、つい先日、さくらさんに指摘されてことを思い出して、だ。
俺の秘密は、あんまり人に見られてはいけないものかもしれない。俺が元の時代に戻るためにも。
「うん、楽しみだよ」
俺は彼女の1歩後を付いていく。
俺が未来へ帰った時、四季神さんと会えなくなるのはほんの少し辛いかもしれないな。
俺は今日の楽しそうな彼女を見てそう思った。
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