忘却と昇華の狭間

霜月れお

1~15

1 智恵子抄 レモン哀歌/高村 光太郎



『智恵子抄 レモン哀歌』は、唯一、霜月が知っている詩です。

 詩には興味が湧かなかった頃の忘れられない詩。

『かなしく白くあかるい死の床で』とか、『トパアズいろの香気が立つ』とか、何度読んでも最高だ!(まぁ、最高しかありえんのです)


 霜月は『がりりと噛んだ』というところに、智恵子の生への力強さを感じる。

 この詩には、もとい智恵子抄には、いつまでも新鮮で、透明で、綺麗な智恵子のことが書いてあると勝手に妄想している。

 だからこそ、智恵子の病の深刻さが浮き出てる、そんな詩だ。


 今では、どの学年の授業だったか思い出せない。それくらいの昔話。

 確か『あなたの機関はそれなり止まつた』という一文の『機関』という表現に関する授業だった。

 この一文、智恵子が死んだことを表している言葉に、高村光太郎は『機関』という言葉を選んだ。

 学校の先生は、当時の汽缶車の動力である『機関』とすることで、うんたらこうたらと説明していたのを記憶している。


 『気管』や『器官』ではなく『機関』という文字を選んだというのが、霜月にはとても印象に残っていて、そのような意味でも『レモン哀歌』は忘れられない詩。


 そして、今日も物思いに耽る霜月は、脳内連想ゲームが始まります。


 気管、器官、機関、汽缶車、生と死……



 銀河鉄道の夜だ。間違いない。

 そして霜月は、意味も無く叫ぶ。


「カムパネルラ!!」









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