第13話 元B級冒険者、受付嬢バーバラの試験
「私とも勝負しましょう、ウジザネ」
「あんたとも戦わねばならんのか。理由は?」
「ギルドの人間として、あなたのこと、あなたの実力をキチンと把握するためよ。言ってみれば、私からの試験みたいなものね」
バーバラは倒れている男2人に目を向けた。
「そこに転がっているガルフとボッツを赤子扱いするほどの実力なら、まだまだ本気じゃないんでしょう?」
「あー、まあ、そうだな」
たしかに本気は出していない。
油断はしていないが、ちゃんと手加減して倒したからな。
「良いよ、あんたの提案のおかげで実力を示せたしな。その試験、受けてやる」
俺が試験を受けると宣言した途端、周囲が
「ま、マジかよ!! あのバーバラさんの魔術が見れるってか!!」
「あの人が戦うのは久しぶりだな。一体どうなる?」
「灼熱のバーバラの戦いを見れるとは、なんという幸運だ」
「あの新人もめちゃくちゃ強いが、さすがに魔術師バーバラには勝てないだろう」
「いや、案外食い下がるかもしれないぞ。接近戦に持ち込めば……」
バーバラが戦うと聞いて、冒険者たちが色めき立つ。
どうやらこの女はただの受付嬢ではなく、腕の立つ者らしい。
俺はカミラの方を振り向く。
「なあカミラ、バーバラって強いのか?」
「つ、強いどころじゃないです。バーバラさんは元B級冒険者で、凄腕の炎魔術の使い手……灼熱の二つ名を持つほどの実力者ですよ。私が騎士学校にいた時も、その異名は耳にしていましたし」
カミラの言葉に、バーバラはウインクして微笑んだ。
「カミラちゃんにそこまで褒めてもらえるなんて嬉しい限りだわ」
そしてバーバラの視線が、俺のほうを向く。
「じゃあ、始めましょうか」
その瞬間、バーバラの体から朱いもやが現れる。
熱い空気がその場を支配し、彼女の手にある杖が炎を帯びていく。
あのユルゲンとかいう騎士団長も魔術というものを使っていた。
だが、あんなものとは比べ物にならない。
ユルゲンの放った炎をロウソクの火とするなら、
バーバラがまとう炎は、
はっきり言って、格が違う。
「へへっ、上等上等……!!」
俺は名刀、
手加減すれば痛い目を見ると、俺の本能が察したのだ。
俺が刀を抜いた途端、周囲の者たちが
中には腰を抜かしてしまう冒険者もいる。
「うふふっ、ここまでとは……!!」
バーバラは目を大きくしてから、笑う。
すでに闘気は解放している。
そこらの雑魚なら、立っていることもできないだろう。
その点で言えば、バーバラはかなりの強者なのだと判明したな。
「
バーバラが杖を向けると、炎が発射された。
人間一人を丸飲みするほどの、巨大な炎の塊だ。
なるほど。ユルゲンと同じ魔術らしいが、使い手次第でこうも変わるのか。
「しぃっ!!」
左文字を一閃し、炎を断つ。
超高速の斬撃で、空気ごと熱を切り裂いた。
うん、それでもすげえ熱い。
今のをまともに受けたら、焼け死ぬだろう。
「魔力を使わず、瞬時に炎を斬ったのね……想像以上だわっ!!」
バーバラは驚きつつも笑みを絶やさない。
その瞳は爛々と輝き、楽しむ感情が伝わってくる。
「じゃあ、これならどうかしらっ!」
彼女が杖を天に掲げると、彼女の周囲にいくつもの火の玉が現れる。
その数、ざっと30個以上。
「
バーバラが杖を振るうと、一斉に炎の弾丸が襲いかかってくる。
まるで火矢の雨だ。それを人間一人がやってのけているのだから、なお恐ろしい。
しかしなあ、これは避けきれんな。
数も多いし、一つ一つ斬ってるヒマはない。
仕方ない、ちょいと手の内を見せるか。
「
刀で薙ぎ払うのと同時に、脚力と服のそでやすそを利用しながら、コマのように回転する。
円運動によって強烈な
これぞ風魔忍術の奥義その一、『
全方位に攻撃すると同時に、旋風を起こして飛び道具を弾き飛ばす技である。
「なんだ、一体何をやったんだ!?」
「あの炎弾の一斉射撃を、一発で防いだだと!!」
「わからねえ、わからねえけど……回転して、すべて
「おいおい、意味が分からんぞ!?」
冒険者たちが驚くのも無理はない。
俺も若い時に
なんとか習得したが、俺の場合、刀を使わなければ今の奥義はできない。
ちなみに、風魔殿は素手でできるよ。
あの人こそ、戦国を代表する化け物忍者だから。
「すごい技ね。魔力すら使わず、体術と自然現象を利用して、こんな芸当ができるなんて!!」
「おお、今の一回で仕組みがわかったか。良い観察眼だ」
俺はうんうんとうなずいてから、
「んじゃあ、そろそろこっちからも」
刀を構え、一瞬で距離を詰めた。
やっと体が温まってきて、本気で動けるようになった。
「っ!?」
「えっ……」
ーーー氏真の移動速度は、ほとんどの者が目で追えなかった。
この場に居る者たちの中で、わずかに反応できたのは2人のみ。
対峙していたバーバラと、観戦していたカミラだけだった。
「くっ、
「遅えよ」
斬撃が無数に走り、炎の壁がズタズタに崩れる。その剣速は疾風のごとく、目にも止まらぬ早業である。
「くっ、
接近されたバーバラは杖を捨てた。
そしてすぐさま両手から炎の剣を生み出して、斬りかかってきた。
戸惑っていたものの、とっさの反応はなかなか速いな。
だが、接近戦ならこっちのモンだ。
「鹿島新当流、
バーバラの炎の双剣に対し、俺も左文字で迎え撃つ。
互いの体が交差し、通り抜ける。
俺も、バーバラも動かない。
「お、おお……!!」
「どっちだ、どっちが勝ったんだ」
「わ、わからん。でも、2人とも動かないぞ」
周囲で見ていた冒険者たちが、押し殺すようなざわめきを起こす。
そして、
「く、うっ」
先に膝をついたのは、バーバラの方だった。
炎の双剣も切断されて、崩壊していく。
「バ、バーバラさん!!」
「大丈夫ですか!?」
「あのバーバラさんが、負けた……!?」
「い、今の一瞬で何が起こったんだ?」
冒険者たちは何が何だかわからない、という様子だ。
「大丈夫よ……峰打ち、だわ」
バーバラがそう言うと、周りにいた冒険者たちの焦りと緊張が和らいでいく。
「そうだ。でも、ちょっと痛かっただろう。スマンスマン」
俺は刀を納め、頭を下げた。
「いいえ、気にしないで。むしろ峰打ちで済ませるほど手加減してくれた……気を遣わせたのはこっちのほうだし」
バーバラは立ち上がった。
「さっきの剣、すごく不思議だったわ。私の方が速かったと思ったのに、あなたはゆっくり動きながら私を斬った……」
「ご名答。遅さを見せて、速さを見せぬ。そーいう技だ」
鹿島新当流、
これは難易度が高い技だが、やっていることは単純明快。
緩急で相手の目を混乱させて素早く斬る、という技だ。
その緩急が熟練すればするほど、より相手の目を惑わすことができる。
師匠の塚原卜伝殿から教わった技の一つだ。
「見事だわ、ウジザネ。ギルドの規定ではあなたはまだF級冒険者だけど、戦闘力はすでにA級に近いものを持っている」
A級と聞いて、周りの冒険者がどよめく。
カミラもポカンと口を開けて驚いていた。
そんなに驚くことだったのか?
まあ、実力を褒められていることは嬉しい限りだ。
「転移者、ウジザネ・イマガワ。冒険者ギルドはあなたの身分と実力を保証し、歓迎するわ。期待の大型新人の加入を祝して、今夜はギルドで宴会を開くとしましょうか!!」
オオォーーーーッ!!
宴会と聞いて、冒険者たちは一斉に盛り上がる。
男も女も問わず、手を挙げ、声を上げた。
はは、ずいぶんと陽気なやつらだ。
だが、それも悪くない。良くも悪くも、実力主義の自由な業界なのだろう。
こうして俺は、冒険者になった。
それにしても
◆◆◆お礼・お願い◆◆◆
第13話を読んでいただき、ありがとうございます!!
氏真の転移モノとか、なんて斬新なんだ!!
バーバラ vs 氏真、すごかったぞ!!アクションをもっと見せろ!!
次回もまた読んでやるぞ、ガンガン書けよ、鈴ノ村!!
と、思ってくださいましたら、
★の評価、熱いレビューとフォローをぜひぜひお願いします!!!
皆様の温かい応援が、私にとってとてつもないエネルギーになります!!
鈴ノ村より
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