6

 眠りから意識が戻る。


 なんだか嫌な夢を見た気分だった。寝起きは最悪で、目を開けるのすら億劫だった。


「ん……」


「先輩?」


 体を起こし周囲を見渡すと質素な部屋のソファに眠っていた事がわかった。おそらくショッピングモールの休憩室か何かだろう。


「俺は何時間ぐらい寝てんだ」


「1時間ぐらいです。あの後スタッフさんがここまで運んでくれて、休んでました」


「そうか……」


 とにかく頭の整理が出来てなかった。


 後輩に聞きたい事だらけだった。


「なあ色々聞いてもいいか?」


「はい先輩……」





 彼女に色々な事を聞いた。


 話をまとめると彼女は詩織先輩の妹であり、ふとした拍子に俺が詩織先輩の事が好きと言う噂を耳に挟んだらしい。で、その事を詩織先輩に伝えると、詩織先輩が俺が告白する前に断らせてしまった事。その後噂に苦しみ、挙句の果て全国大会の予選までも棄権してしまった事。それらのせいで部活メンバーや顧問と関係を拗らせてしまった事を気に病んだそうだ。結果、俺と同じ高校に進学し俺と接触を図ったらしい。


 そんな事を聞いて、俺は後輩って実はいい奴だったんだなと素直に思った。





「最初あったときは驚きました。だって先輩同じ中学で同じ部活メンバーでさらに憧れの先輩の妹の事を知らなかったんですもん」


「うっ……それを言われると痛い」


 当時の俺は先輩しか見えていなかったし、他の部活メンバーも努力不足の有象無象程度にしか思っておらず、名前はおろか顔すらも覚えようとはしてなかった。


「本当に、先輩を騙そうとかそういうのは思ってないんです。ずっと言わなかったですけど、本当は謝罪をずっとしたかったんです」


「そうか……」


 それは普段の彼女の行動を見ていればわかる事だった。中学の頃感じた侮蔑の視線とは違い、本当に彼女は俺を見てくれていた。





「先輩は、私のことをどう思ってるんですか。私は先輩を貶めました。それは決して許される事じゃありません。もし先輩が二度と関わるなと言えば、そうします」


 そう言った彼女はいつもの淡白な喋りとは違い、怖がる様な弱々しい震えた声で聞いてきた。


 正直俺は彼女にどんな感情を向けたらいいのか分からない。怒りが無いと言えば嘘になる。でも今な俺の為に高校まで追ってくる行動力は、本当に凄いと感心してしまう。


 だから、俺は俺の望む感情彼女に向ける事にした。


 きっと、昔の俺だったら、きっと許さなかっただろう。だけど、もうあの事件から2年も経っている。今となっては自分を知る良い経験だとも思える様になった。




 だからーー




「俺はお前の事を恨んでない。もし後輩が俺にした事を気に病んでるなら何回でも許す。だから、その……」


 少し自分の本音を言うのは恥ずかしかった。


 それでもここで伝えないよりは良いだろうから。




「今まで通り、一緒にいてくれ」




 そう言うと、彼女は急に頬に涙を流し始めた。しかし彼女は何故か嬉しそうに笑っていて、少し胸が暖かくなった。




「ありがとう、ございます……」




 彼女の初めて見るそのはにかんだ笑顔は、俺の心を満たしてくれるものだった。彼女の顔を見ていると吸い込まれそうで、それに目が離せない俺がいた。

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