まかんちゃんの黒歴史
@makaaaaaan1182
ツキアカリ
ツキアカリ1
1
街の大通りを歩いた。
ここ、スチールビレッジの街は戦争によって生まれた。戦後、難民達が集まり発展して出来た、スラム街の成り上がり。
精緻に敷かれた広場へ続く石畳の大通り。道に沿って平均三回建の背丈の高い石像建築。道ゆく人々は旅人や行商人といった多目的の人が多く、通りでは市場が形成され、とても賑やかな光景になっている。
そんな街並みを歩く、一人の少年。
寝癖の目立つボサボサの茶髪に、透徹の真っ直ぐとした瑠璃色の瞳。そして季節感のない赤いマフラーを首に巻いて、大通りを駆け抜ける今年で14歳になる少年。
名前はヒロという。
ヒロは街ゆく人に明るく元気に挨拶を振りまいた。返事を返してくれた人は決して多くは無かったが、「おーい!ヒロ坊!今日も元気だな!」と市場の野菜売りのおじさんが、ヒロにゲラゲラと笑いながら返事をしてくれた。ヒロはそれを見て、大きく手を振り返す。
そのおじさんの曇りない笑顔が、ヒロの胸を暖かくしてくれた。
歩く足が少しだけ軽くなる。ウサギの様にステップを踏んで歩いた。
そんなちょっとした朝の出来事。
広場を抜けて西通りへと歩みを進める。
すると、ヒロは街の路地裏に目が止まった。なんだろうと思い、よく目を凝らして路地裏を見れば、女の子が二人の男の子に囲まれているようだった。女の子は二人の男達に言い寄られて、困って縮こまっているようだった。途端、後ずさった女の子がバランスを崩して、どっしりと尻餅を付いてしまう。
ヒロはそれを見た瞬間、その路地裏へと走り出した。
「ねえ、嬢ちゃん旅の人?良かったら一緒に遊ぼうや」
「そうでやんす!」
「ふえぇ……」
「こらぁぁぁああああ!!」
ヒロは女の子を守るように、男の子達に割って入る。両腕を広げて、少女に近づけまいとする。
「あぁあ!?なんだテメェ」
二人の男の子を、ヒロは知っている。この街でも有名な不良三兄弟、その次男と三男だ。
「っ……。」
後先考えず、咄嗟に来てしまったヒロは、言葉も出ずに少し怯んでしまう。自然と立つ足が震えて、不安に駆られる。
この兄弟の長男はもう18にもなる大男で、街でも手のつけられない悪党と化している。そんな危険な兄弟に勢いで喧嘩を売ってしまった事が、少し怖かった。
「こ、困ってるじゃないか!や、辞めろよ!」
冷や汗が額から吹き出す。強がってはいたが、唇も微か震えていた。息が整わない。一呼吸一呼吸が針を吸うように喉に刺さった。
(怖気つくな。これは俺にとっての試練なんだ。だって、俺はーー)
ヒロは、自分の頬を思いっきり両手で叩く。気合を入れ直し、弱音を消し去った。
「よ、よし!かかって、こいよ!」
それが喧嘩の始まりの合図だった。
ヒロと次男が殴り合う景色があった。
お互い歳の近い同士、力の差は互角ぐらいだ。お互い手加減などなく、思いっきり拳を振るう。次男の拳がヒロの顔面にめり込む、鼻血が出た。しかしヒロも負けじと頭突きをくらわせた。痛みは無かった。それどころでは無かった。ヒロは無我夢中で相手を倒す事にしか意識を向けなかった。
「クッソが!覚えてろよな、このカスが!」
「お前なんか兄貴に言いつけてやるでやんす!あ、兄貴!待ってください〜!」
先に根をあげたのは向こうので、未練たらしくこっちを睨みながら、逃げていった。
※※※
ヒロは、安堵から張り詰めていた胸を撫で下ろした。『ふぅー……』と風船の空気が抜けたように息を吐くと、次は身体中が痛いのに気づいた。
「っ……」
痛みで床に座り込む。さっきまでは大丈夫だったのに、急にどっと疲れた。
「……あの」
そんなヒロに、誰かが声をかけてきた。
声の主はさっきの少女だった。てっきりさっきの喧嘩中に何処かに逃げたのかと思ったが、まだ残っていたらしい。
「これ、使ってください」
少女が座り込むヒロに差し出してきたのは、白いガーゼのハンカチ。
「何に?」
ヒロがハンカチを受け取って少し困ってしまう。
「あの、鼻血が……」
「え……」
言われてから、気づいた。鼻血が出ている。急いでハンカチを貰い、鼻に当てて止血する。幸い、鼻血の対処は手慣れていたのですぐに止まってくれた。
・・・ハンカチから少しいい匂いがした気がした。
「君、見慣れないけど旅の人?」
少し落ち着いてから、ヒロは女の子に接触を試みる。しかし、女の子はヒロとなかなか目を合わせようとしなかった。申し訳なさそうに俯いて、もじもじと手をいじっている。
「はい……桜ノから来ました」
少女はそう答える。桜ノは隣町に当たるところだ。とは言ったものの行くのに馬車で4日もかかるのだが。
「そっか……」
ぎこちない会話はすぐに途切れ、静寂が二人の間に訪れた。どうやらこの少女はあまり会話が得意ではないらしい。ヒロより少し小さい身長の少女からは、表情がなかなか読み取れず、ヒロは言葉が詰まる。
暗い路地裏から、明るい広場の市場。少しジメジメとした空気が美味しくない。そろそろ、ヒロも寄り道はよして自分の……
「あっ!」
素っ頓狂な声が出た。忘れていたことを思い出した。
「……えっ」
「ごめん!今日バイトがあるんだった!」
「えっ、」
「ごめんすぐ行かなきゃ。ええっと、このハンカチは今度返すから!」
「あの、、」
「バイバイ!」
ヒロは広場の方へ走り出す。急いでいた。解けない様にマフラーを掴みながら全力で走り出す。
「あの!」
すると少女が叫んだ。
「ありがとうございました!」
精いっぱいの声なのか、少し上擦った声だった。
ヒロはそれに振り向きながら手を振り返して、そこを後にした。
なんだか、笑みが止まらなかった。
赤いマフラーを、もう一度握り直す。
ヒロにとってこれはマントの様なもの。
(俺はーー)
「ヒーローになりたい」
こっそり、声に出してみた。
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