最終話

「社長、逮捕されたらしい」


 竹田からいきなり連絡が来たかと思ったら、そのようなことを唐突に言われた。


「は?」


 衝撃の内容に僕は一瞬頭が完全にフリーズしてしまう。

 そして、十数秒後にようやく再起動した頭で竹田に問いかける。


「えっ、それ本当?」


「あぁ、カイトから聞いた。本人も、本当かどうか分からないとは言っていたけど、何かあったのは確実らしい」


 社長――いや、先生が逮捕されたということは、以前勇次郎が言っていた『完全に黒』の何かしらが世間にバレたのだろうか。


「俺もうすぐバイトだからさ。つぴちゃんからも勇次郎に聞いといてよ。アイツ俺が連絡しても既読すらつけないし、電話も出ないからさー」


 勇次郎がマルチを抜けると宣言してからも、勇次郎と竹田の仲はあまり良くなっていなかった。


 いや、むしろ悪化したと言ってもいい。


 両者の言い分も聞いたが、どちらの気持ちも理解できるので、僕は二人の仲に関しては介入しないことを決めていた。


「まっ、とにかく頼んだよ。じゃっ」


 そう言って電話は切られた。

 僕はすぐさま勇次郎にメッセージを送る。


 すると、すぐに電話がかかってきた。


「あっ、もしもし勇次郎? あの話ってほんとのことなの?」


「まぁ、正確には逮捕までは至ってない、が正解かな。これ見てよ」


 そう言って、勇次郎からYouTubeのリンクが送られてきた。

 チャンネルは、とある有名な私人逮捕系YouTuberのものだった。


 動画のタイトルを見ると、『マルチ商法の親玉を警察と一緒に捕まえた件www』と書かれていた。


「えぇ……」


「俺等には知らされてなかったけど、実は社長の所有している会社のいくつかが行政処分食らってたらしいんだよ。実は俺のいたとこも食らってたっぽい。んで、それにもかかわらず勧誘を続けてたみたいだから警察に捕まったらしい」


 勇次郎の話を聞いて、僕は案外神様は存在して、悪人はなんやかんやで成敗される仕組みを作ってるのかなと思った。


 やはり悪いことはするものではない。


「俺もやられたことだけどさ。そもそも、マッチングアプリ使ってマルチの勧誘って普通に駄目だよな」


 それはそうだろう。


 どのマッチングアプリも、規約でマルチだったり宗教の勧誘は禁止しているはずだ。

 人の恋心を利用してマルチに入会させるなど、あまりにもむごいと思う。


「どうやら、俺以外にも似たような手段を使って会員を集めてたみたいなんだよ。しかも、カイトの他の大学生にまで消費者金融で金借りさせて入会させてたんだ。酷い話だよ」


「ゆーじは今後どうするの?」


「俺はもう抜けたのはこの前言った通り。だから、一緒に抜けたメンツと関わることはあっても、あのセミナーにはもう二度と関わることはないかな」


「それに、今セミナーの上層部すごい慌ただしい上に、それでも残ったメンバーで構成した残党組織みたいなのを別のとこと合併する計画があるらしいんだよね。正直俺はあそこの連中嫌いだから流石についていけない。まぁ、着いていく気はさらさらないけど」


 僕はその言葉を聞いて安心した。

 無いとは分かっていても、また勇次郎が着いていくなどと言いだしたら怖いからだ。

 だが、そんな心配は僕の杞憂だった。


「いやー俺も本当に馬鹿だったよ。30万と高い勉強料になったなぁ……」


「まぁ、高い勉強料になったって自分で気付けるようになったんだから、それはそれでいいんじゃない?」


「それもそうか」


 勇次郎は苦笑いしながら言う。


「――もしさ」


 勇次郎がつぶやく。


「もし、俺がまた道を踏み外しそうになったら、つぴちゃんはどうする?」


「えっ、次あんなことになったら殴ってでも目覚まさせるよ」


 僕は即答する。

 勇次郎は一瞬あっけにとられた後、勢いよく笑い出した。


「ははっ! つぴちゃんらしいや。じゃあ、俺もつぴちゃんがおかしくなったら殴るね」


「いいね! 河原で友情の殴り合い、一度やってみたかったんだよね~」


 願わくば、そんな日が来ないことを願う。

 でも、ちょっとだけ河原の殴り合いもやってみたい気がした。



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どうも、作者の不労つぴです。

ここまで読んでいただきありがとうございました。

最終話と言っておきながらこの後、後日談とおまけがあります。

残りわずかとなりましたが、最後までお付き合いいただけると嬉しいです。

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