第17話 僕の願いは


 あの通話から数日後、僕は実家に戻っていた。


 その頃、母が入院することになり、その関係で数日ほど実家に滞在することになっていたのだ。なので、勇次郎からの誘いはベストタイミングだった。


 僕は先ほどドリンクバーで注いできたメロンソーダの入ったグラスに手を伸ばす。


 いつもなら味が薄くなるという理由で飲み物には氷を入れない僕だったが、この日はいつもとは違って、グラスに氷を入れてから飲み物を注いだ。


 僕がグラスを持つと、緑色の中の氷がグラスに触れてカランカランという小気味のよい音を立てる。


 店内を見渡すと、午後10時を過ぎているのにも関わらず、どこも満席だった。


 店内は20代前後の若者たちで賑わっており、ウェイターが忙しそうにせっせと料理を運んでいた。


 勇次郎はまだ来ない。

 先程、『遅れるから先に店内で待ってて』という連絡が来た。なので僕は先に店に入り、フライドポテトとドリンクバーだけ注文して時間を潰していた。


 最後の連絡から30分ほど経つが、未だに勇次郎は表れない。こちらからも連絡しようとも考えてたが、運転の邪魔になるだろうと考え、やめた。


『近い内に会わない? そこでつぴちゃんの気になっていることも全部話すから』


 僕は先ほど届いたフライドポテトをつまみながら考える。


 どうして勇次郎は今になって僕に会う気になったのだろうか。


 勇次郎がマルチにハマってからも互いに連絡は取っていたが、僕の方から会おうと言い出す気にはなれなかった。無いとは思うが、会ったら僕の決意が揺らいでしまう気がしたからだ。


「ごめん、つぴちゃん。遅れた」


 ハッと声のした方を見ると、そこには勇次郎が息を切らしながら立っていた。勇次郎は以前会ったときとは違い、パーマがかかった髪をセンター分けにして両耳にピアスを付けていた。心なしか以前よりも少し痩せたような気がする。


 いや、痩せたというよりかはやつれたという表現のほうが正しいのかもしれない。しかし、なんと言えばいいか、勇次郎のはあまり良い痩せ方とはいえない感じだった。


 一体この数ヶ月で彼の身に何があったのだろうか。


 僕は笑みを浮かべながら話しかける。


「勇次郎、久しぶり。少し痩せた?」

「まぁね。でも、つぴちゃんも人のこと言えない気がするけど?」

「僕は平常運転だからいいの」


 こんな他愛のないやりとりをしたのはいつ以来だろうか。あの日から数ヶ月ほどしか経っていないにも関わらず、僕の中では5年ほど経ったような感覚だった。


「何か頼まないの?」

「そうだった。急いできたからお腹ペコペコなんだよ」


 勇次郎はメニュー表をさっらと見た後、呼び出しボタン押して店員を呼ぶ。だが、店員も忙しいようで中々こちらには来なかった。


「来ないね」

「仕方ないさ。今日は特に混んでるんだし。それより、つぴちゃんに聞いてほしいことがあるんだ」


 勇次郎の声が真剣なものになった。その様子に僕は身構えてしまう。


「俺は近いうちに――いや、勧誘も活動ももうしてないんだけど。ともかく、俺は後少ししたらマルチから身を引く」


 全くの予想外のセリフに僕は口に含んでいたメロンソーダを吹き出しそうになった。

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