第15話 勇次郎コロナにかかる
「悪い! 遅れた!」
僕と昂輝のテーブルに、アフロヘアーのヒゲを蓄えた男が現れた。彼こそが竹田だ。人の容姿にとやかく言うつもりはないが、竹田を見るたび、その蓄えたヒゲは剃ったほうがいいなと僕は思う。
「本当はもっと早く上がれるはずだったんだけどさ、今日に限って人手が足りなかったんだよ。んで、最後まで残ることになったわけ。あぁー腹減った」
竹田はそう言うと、メニュー表を取り、ペラペラとメニュー表をめくる。そして、ボタンを押して店員を呼ぶと、チキンドリアにハンバーグ、マグロ丼を注文した。
「そんなに頼んで大丈夫?」
「いざとなったら二人に食ってもらうさ」
僕の質問に竹田はそう答え、ドリンクを注ぎに行った。僕は呆れながら竹田を目で追う。
「つぴちゃん、竹田食い切れると思う?」
「いやー無理でしょ」
僕は苦笑いしながら、昂輝へ返問する。竹田は必要以上に注文した挙げ句、食べきれずに物を残すという悪い癖がある。ちゃんと食べれる分だけ注文しろと僕は毎度言っているのだが、彼は聞く耳持たずだった。
数分後、竹田は右手にコーラ、左手に梅昆布茶を持って帰ってきた。相変わらずチョイスが渋い。
竹田は席についた後、コーラをグビッと美味しそうに飲んでから話し始めた。
「勇次郎の話なんだけどさ。あいつコロナになったらしいぜ」
「えっ、そうなの?」
勇次郎がコロナに罹ったというのは初耳だ。僕は未だに感染したことはないが、感染するとかなりキツイという話は聞いていたので、勇次郎が心配になってきた。
「一応体調は大丈夫らしいぜ。ちょっとキツそうではあったけども」
竹田のその言葉を聞いて僕はホッと胸を撫で下ろす。命に別状が無いようで何よりだ。だが、竹田は浮かない顔をしたままだった。
「そんな浮かない顔してどうしたの? なんか気になることでもあるわけ」
「うーん……ちょっとなぁ」
「何? 気になるじゃん話してよ」
「いや、今回勇次郎がコロナに罹ったのはあの社長のとこに行ってかららしくてさ。セミナーのメンバーの大半が今コロナに罹ってダウンしてるみたいで。実際カイトもコロナ罹って今きつそうだし」
コロナをどこでもらってきたかといったら、思い当たるのは東京に行ったときだ。
「そもそもよく考えてみてよ。わざわざ緊急事態宣言中の東京に行って、そこでマルチの社長の家に行ったせいで、会員あらかた感染するとかバカじゃね? 行くなら緊急事態宣言解除されてから行けばいいのにさ」
確かに竹田の言う通りだ。社長の家に行って持って帰ったものがコロナウィルスなのは、あまりにもバカバカしい。
「それに勇次郎のとこ、今年90くらいになる婆ちゃんと一緒に住んでるだろ? 婆ちゃんにコロナうつしたら流石にマズイはずなのにさ。アイツ、そんなことにも気づかないくらいゾッコンなのかと思うと虚しいよほんと」
そう言って、竹田は残りのコーラを一気に飲み干す。僕も釣られてココアを飲み干す。ある程度時間が経ったココアは既に冷めていて、やけに甘ったるかった。
「そう言えば、昨日陽平と遭ったけど僕たち大丈夫かな?」
昂輝が思い出したかのように質問する。確かに、陽平も一緒に行ったのなら感染していてもおかしくないはずだが。だが、竹田は「問題ないだろ」と言い放った。
「あいつは馬鹿だから罹ってないよ。そもそも、アイツが行ったのは150階建ての高層ビルだ。社長とやらがいたビルとは別物だろ?」
竹田は、そう皮肉交じりに言ってまた飲み物を注ぎに行った。
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