第6話 竹田からの通話
勇次郎との通話を終えた後、僕は重くのしかかるような疲労感に包まれながらベッドに倒れ込み、ボーっと天井を眺めていた。
通話前まで手を付けていたレポートは、全くやる気が出なくなってしまったので、今日はもう一切手を付けないことにした。指一本動かす気力すら無い。明日には締め切りだが、もうそんなことはどうでも良い。
親友が変わってしまった現実をすんなりと受け入れられるほど、僕は器用な人間ではなかったのだ。
枕元に置いていたスマートフォンの画面が光る。友人の竹田から『おーい。いまひまー?』とメッセージが届いていた。返信する気力はなかったが、無意識のうちにスロックを解除し、アプリを立ち上げてしまった。既読をつけた瞬間、電話が鳴り響く。
「……何か用?」
「やぁ。相変わらず憂鬱そうだね、つぴちゃんは」
竹田の底抜けに明るい声が通話越しに聞こえた。
「今から何人かに声をかけて一緒にモンハンでもしようと思うんだけど、一緒にどうよ」
竹田の外交的な性格は、良くも悪くもいつも周りを巻き込む。彼の提案には断りにくい魅力があるが、今の僕にはその気力すらなかった。
「ごめん、今そんな気分じゃないからいいや。僕抜きでやってきてよ」
「あー……そなの。じゃあ、今日はいっか。俺としばらく通話してよ」
「……まぁ、いいよ」
出来れば今は1人にして欲しかった。しかし同時に、このまま一人で考え込むのも避けたかった。そんな矛盾した感情が、僕の中で渦巻いていた。
「そう言えば今日大学で元カノに会ってさー……あいつめっちゃ男引き連れて歩いてたんだよ。正直キメ―と思ったわ」
竹田は高校卒業後、地元の大学に進学した。そのため、同じく地元に残った勇次郎と一緒に遊んでいた。
竹田は話を続けるが、僕の耳には一切入ってこなかった。まるで彼の声は遠くで鳴っているかのように左耳からはいって、そのまま右耳から抜けていく。そのため僕は話半分で彼の話を聞いて、適当に相槌を打っていた。
「ねぇ、つぴちゃん。いつも元気はないけど今日はいつにもまして酷いよ? 何かあった?」
上の空になっている僕を不審に思ったのか、竹田は質問してくる。竹田は友人の中で最も人の感情の機微に鋭い。だから、身の回りの異変をいち早く察知する。
「さぁ、どうだろ」
僕ははぐらかすように答える。
竹田はおそらく勇次郎の今の様子を知っている。けれども、それを竹田が一早く僕に知らせてくれなかったことに不満を抱いていた。今になっては子供じみた我儘だとは思う。僕は何か良くないことがあると気分がどん底まで落ち込んでしまい、何事も全て悪いように捉えるという悪癖がある。
その時の僕は、(本当にめんどくさいやつだと思うが)自分は竹田の信用に値する人間ではなかったのだと勝手に思い込み、勝手に落ち込んでいた。
「えーなになに。教えてよー」
竹田はさらに詰め寄ってくる。竹田はこうなると相手が根負けするまで続く。僕は観念して、大きなため息をついた。
「勇次郎と話してきたんだ。僕より近いとこにいる竹田はもう知ってるんでしょ? 今の勇次郎がどうなってるか」
僕の問いに竹田は沈黙し、通話越しに竹田が息を呑む音が聞こえた。
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