親友がマルチにハマった話

不労つぴ

プロローグ 僕の後悔

 夜の静寂の中、風呂上がりにベッドの上でだらだらとくつろいでいると、突然スマートフォンが震えた。電話の主は親友の勇次郎からだった。


「つぴちゃーん!元気してるー?」


 勇次郎は何の前触れもなく電話をかけてくる。だが、普段話し相手が少ない僕にとって勇次郎の電話は非常にありがたかった。


「まぁまぁかなー」

「大丈夫?またネガティブになってない?」

「人をいつも鬱になってるやつだと思うのやめてくれない?」


 僕と勇次郎が話す内容はいつも変わらない。お互いの近況、共通の知人の話、そして高校時代の思い出話。勇次郎と話していると高校時代のあの楽しかった日々が鮮明に思い出せるような気分になって僕は勇次郎と話す時間が好きだった。


「そう言えばつぴちゃん。俺つぴちゃんに言ってないことがあるんだ」


 この前電話したときも「俺つぴちゃんに怒られそうなこと始めたんだ!」と勇次郎が言っていたのを僕は思い出した。だが、その時の僕はどうせ大したことではないだろうと判断し、聞き流していた。


「へぇ――当ててみていい? 彼女出来たんでしょ?」

「違います。彼女出来たならもう報告してるって」

「じゃあ、この前マッチングアプリで出会った子といい関係とか?」

「それも違う。その子からは一歩的にブロックされました!」

「……法律に触れてたりしてないよね?」

「多分触れてないんじゃないかな。いや、グレーゾーンかも」

「グレーゾーン……?」


 このとき、僕は勇次郎の言葉に違和感を感じた。いつもの勇次郎ではあれば「流石に法には触れてないって!」などと笑い飛ばすはずだが、彼はそれをしなかった。


「分かんないや。早く答えを教えてよ」

「まぁまぁ、もうちょっと待ってよ。もう少しで、つぴちゃん達にも胸を張って報告できそうなんだ。けど、どうしても知りたいなら今教えてあげるけど」


 僕は少し考えた後、勇次郎の「胸を張って報告できるタイミング」まで待つことにした。


「分かった。勇次郎が報告してくれるまで僕は待つよ」


 このときの判断を僕は今でも恨みがましく思う。

 もっと早く勇次郎から聞き出せていれば。

 いや、それより前の最初の段階で止めるべきだったのかもしれない。

 無理矢理にでも勇次郎から聞き出すべきだったのだ。


 僕はこの数ヶ月後、このときの自分の判断が間違いであったことを知る。

 そしてそれは、僕の身の回りを巻き込んだ最悪な事態に発展することとなる。

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