第7話 事態急変

 私たちは2人で床に耳を当て、下の階の会話に耳を澄ませる。


「先ほど密偵班から上がってきた報告は一体どういうことだ。話が違うではないか!」

「しかしですね……」


 なにやら上司が部下を叱責しているようだ。


 上司の声は聞いたことがある。


 確か、そこそこのお偉いさんだ。


 とりあえず、再び話に耳を傾ける。



「もし近衛軍が派遣されたらいよいよ全面戦争だ! それだけは避けなければ」


「もちろんです」


「で、誘拐の真犯人はどこの誰なんだ」


「それが特定できておらず……おそらく過激派の連中だと睨んでいるのですが」


「早急に特定しろ。……それで、大臣たちは何と? さらわれた王女の捜索はしているのか」


「すでに帝国軍に捜索を指示したそうですが、いまのところ手がかりは全く掴めていないとのことです」


「まずいな……期限はどれくらいなんだ」


「王国内の開戦派は、私たち帝国政府が誘拐を主導したと主張しています。少なくとも1週間以内には見つけなければヤツらの意見が抑えきれなくなり、王国近衛軍が派遣されると見られています」


「そうなっては我が国も黙っているわけにはいかない。戦争になってしまう前に何としても見つけ出さなければ。……そうだ、例のわがまま令嬢は? 効果があるかはわからないが、彼女に我々の潔白を伝えるようしょを持たせるとというのはどうだ」


「それが、例の令嬢は鬼ごっこをしたまま行方不明とのことで……」


「はぁ!?」



 ──なるほど。


 要するに、帝国は今回の騒動をまた王国の一部開戦派のイチャモンか何かだと思っていたが、どうやらマジで軍を派遣するらしいと言うことを知り焦っているようだ。


 つまりは令嬢の言っていた通り、このままだと戦争が起きる。


 横を見ると、令嬢がニマッとした笑顔を浮かべている。


「だから言ったじゃない」


「ええ、かなりまずいことになりました」


「私に何か言うことないの?」



 ……。


「……下の人たち、あなたを探してるようでしたよ? 早く行ったほうがいいのでは?」


「ねぇ、『疑ってすいませんでした』は?」


「…………先ほどは失礼しました。さて、早く行きましょう。あと、日本語の件もあとでしっかり教えてください」


 私は立ち上がる。が、


「謝罪に誠意が感じられないわね。ジャパニーズ土下座は? 日本語わかるんでしょ?」


「……やっぱり王国に帰る前に一旦ここでんどきますか?」


「強い言葉を使うと弱く見えるらしいわよ。まさに今のあんたみたいに」



 ──再び戦いの火蓋が切って下ろされた。



  - - - - -



(三人称視点)


 行方をくらましていた王国の令嬢は、なぜか天井そらから落ちてきた。


 それも、左大臣の娘と喧嘩しながら。


 しょうもないことで国際問題になってもらっては困るので、誰もそのことについて深く追及することはしなかった。


 結局、王国使節の令嬢に「帝国政府の犯行ではないこと」「帝国内でも捜査を行うこと」「軍事衝突を避けるため王国軍の介入は抑制すること」などを盛り込んだ書物を持たせ、王国に持ち帰ってもらうことになった。



 そしてさらに、より誠意を示し正確に情報を伝えるために、令嬢の帰国に合わせて帝国からも使いを1名同行させることになった。


 人選においては王国からやってきたノクストン公爵令嬢に見合うくらいの家柄が求められたが、王国内での差別的な扱いを恐れて断る貴族が多かった。


 






■あとがき - - - - -

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