推定犯罪者―私を愛したシリアルキラー(未遂)―
高田正人
第1話:今の私の名前は、メアリー・ケリー
◆
これは私の前世らしきものの記憶だ。真実かどうかは分からないし、何もかもが偽りかもしれない。でも、今の私にとってはこれこそが自分の記憶だ。
まず最初に話したいのは「オルタナティブ・サイコ」という名前のゲームのことだ。私はかつてそれにはまっていた――と思う。何もかもが曖昧だけど、このゲームのことだけは覚えているからだ。
舞台となるのは「レイヤード」と呼ばれる超巨大都市。全市民は「評議会」という権力機構によって製品のように管理され、それに疑いを持つこともほとんどない。
思想も、信条も、願望も、全て評議会が決めた通りのものを選び取り、市民として模範的な生活を送ることこそが至福という、絵に描いたようなディストピアだ
特に犯罪について、評議会は兆候さえ嫌悪している。
定期的に全市民は検査を受け、犯罪に繋がりかねないとされた人物は「推定犯罪者」として扱われる。今犯罪を犯していないけど、将来犯罪を犯す可能性が高いから同等に扱う、という狂った理屈だ。
とりわけ危険な人物は施設に収監されて洗脳という名の矯正が行われるか、適宜粛清される。
プレイヤーは評議会直属の犯罪抑止組織「アウトカム」に属する捜査員で、様々な推定犯罪者と共に、都市の平和を守りつつ評議会の秘密を探る……といったストーリーだった。
もうお分かりだろう。
私は今、そのゲームの世界にいるようなのだ。もし私の記憶が正しければ……だけれども。今はこの事実を評議会に隠しつつ受け入れるしかない。
今の私の名前は、メアリー・ケリー。
アカデミーを文句ない成績で卒業した、アウトカム期待の新星である犯罪捜査官だ。私がある日突然この世界のメアリー・ケリーとなってしまったことは誰も知らないと思う。いくら人の頭の中身まで監視してくる評議会でも、メアリーの中身が突然変わったなんて分かるはずがないと思いたい。
ともかく、メアリーの記憶を頼りに仕事にも慣れてきて、これならやっていけるかもしれないと思っていた頃。私の期待を全壊する事態が訪れてしまった。
推定犯罪者の更生を目的とした、コンビを組んでの犯罪捜査のテストに私は選ばれる。
その相手が、よりによってオルタネイティブ・サイコで最悪とされる殺人鬼、ジョン・ドウだったのだ――
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