シュレーディンガーの迷い猫

羽弦トリス

第1話新人をロックオン

ここは、ある都市のサ高住の総務部総務課。

朝から、オジサンの怒鳴り声が響き渡る。

「武田!何度言えば分かるんだ?職員の残業時間がまた、労基違反だぞ!なぜ、徹底しない!」

「和田係長。職員の中にはわざとタイムカードを切らずに、自己申告する連中が多くて……」

「言い訳するな!武田、お前はリーダーだぞ。後輩をキチンと指導しとけっ!バカモノ」

「はい」

「分かったなら、早く行け」

「はい……ハゲがっ!」

「ん?武田、何か言ったか?」

「いえいえ、仕事します」


朝イチ、ハゲの係長に怒鳴られていたのは、武田有30歳だ。この総務課のリーダーだ。リーダーは主任の1階級上のポジション。

武田はデスクに戻ると、隣の若い男に声を掛けられた。

「リーダー、また、やらかしたの?」

「オレが怒鳴られる必要無いよな。あの、ハゲが」

「アハハハ。ってかさぁ〜、今日から新人入るみたいだよ。今、部長室で細かい契約書書かされてるんだって」

「有馬部長か……アイツ、息がくせぇんだよな」

声を掛けた男は半沢友也26歳。主任だ。

「いや〜、かわいい子だねぇ〜」

「今夜は歓迎会だな」

やってきたのは、亀山卓郎24歳と、井口大和25歳。

「リーダー、すっごいかわいい女の子だったよ。23歳なんだって」

「亀山君それは、確かか?」

「亀山ちゃんの言う通りだよ!リーダー」

「ほう、面食いの井口君の太鼓判か〜」

4人は午前中はソワソワして仕事にならなかった。

武田は、歓迎会の店を検索していた。

夢中になっていたので、背後の人物に気が付かなかった。

「武田さん」

「なんだよ!うっせぇな?こっちは、仕事が忙しいんだ」

「仕事してないでしょ」

そう言ったのは、山下ひかる27歳主任だ。

「この、伝票夕方までにチェックして下さい」

と、伝票の束を武田のデスクに置いた。

「こんなん、元木ちゃんと2人ですれば良いじゃない?」

「元木さんと、私は新人の施設案内で忙しいの。ね?おねがい!リーダー」

元木とは、元木理絵23歳の事である。

元木に武田リーダーは、アタックしたが砕けた。

新人が昼過ぎに、総務課に挨拶に来た。

「小林亜美です。今日から、宜しくお願い致します」

と、小林は深々と頭を下げた。

リーダーは、固まった。

……タイプだ!


「ОK、ОK、僕がここのリーダーの武田。今夜は君の歓迎会を開きたい。時間ある?」

と、武田は優しく言った。

「はい。宜しくお願い致します」

「じゃ、ここは17時が定時だから、皆んなで一緒に行こうか?」

「はい」

小林は元木の右隣りのデスクに座り、今日は仕事の流れを説明していた。


17時、定時。


皆んなで、居酒屋に向かった。

居酒屋・佐野屋。

「へぇ〜、リーダーこんな店知ってるだね?」

「半沢君。君もこう言う店の常連になれるように頑張りなさい」

武田は暖簾をくぐると、店員さんに、

「オイッスー!今日は新人歓迎会なんだ。いつもの席で」

「いらっしゃいませ。……初めまして。いつものと言われても……座敷室でしょうか?」

「オレがいつものって言えば、いつもの席だ」


「リーダー、ホントはここ初めてじゃないの?」

「ば、バカ言うな亀山君」

「どうでも良いから、早く飲もうよ!リーダー」

と、井口はブツブツ言って、座敷室の長テーブルの座布団の上に座った。

小林は、元木、山下の両方に挟まれて座った。

黒ビールで乾杯した。


ピシッ!ゴロゴロ!キュルキュル〜。


武田は、急な腹痛に襲われた。

イカン、トイレに走らねば……。

武田はみんなに、ちょっとトイレと言って席でを立った。

脂汗を流しながら、トイレに向かうと、満室だった。


ぐうっ!


「ハァハァハァ、こ、コイツはオオモンだ。そんじょそこらのう◯こじゃねぇ〜」

は、早く誰か出てくれ!

落ち着け、落ち着くんだ!まだ、歓迎会は始まったばっかだぞ。ここで、漏らしたら、半沢らに一生、クソ漏らしと言われかねない。

最後の手段だ!


武田は女子トイレに走った。痴漢もなにも、出したいのだ。

武田は間に合った。

「ふぅ〜、一件落着」

手を洗っていると、小林がトイレに入って来た。

「り、リーダーどうして、女子トイレに?」

「……えっ?こ、ここ女子トイレ?間違っちゃった」

「リーダー、変態じゃ無いですよね?」

「も、もちろん」

武田は足早に席に戻った!


キャー!


女子トイレから叫び声がした。慌てて、女性店員がトイレに向かう。

「て、店員さん。トイレにオオサンショウウオが居ます!」

「えっ?」

それは、武田が流し忘れたブツだった。

武田は、知らんぷりして黒ビールを飲んでいた。

トイレから、帰ってきた小林は言った。

「リーダー、トイレはちゃんと流さないといけませんよ」

「な、何の事?」

「さっき、女子トイレで空いてるトイレ、一つしか無くて、そこに女の子が入って悲鳴を上げたんですよ」

小林は呆れた表情だった。

「リーダー、またう◯こしたの?」

「黙れ!井口!」

「クセー」

「亀山も黙れ!」

「リーダー、僕はリーダーの仲間だよ!この味噌男!」

「は、半沢!裏切ったな?」

この歓迎会は、深夜まで続けたと言う。

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