ゴブリン転生の俺、死亡フラグ回避に頑張る
アイアン先輩
序 ―― オイオイ、俺たち死ぬぜ?
目の前に広がる木々、そして手を見ると緑色の肌。
手に当てると、鋭い牙を持っており、頭を触ると、髪の毛は一本も生えていない。
そして、目の前には、ゴブリンの仲間が三人いる。
あ、なるほど。
俺はゴブリンに生まれ変わったのか。
目の前のゴブリンたちは、それぞれ勇者のパーティーのような格好をしている。
戦士風ゴブリン、僧侶風ゴブリン、魔法使い風ゴブリン……。
しかし、この三人(ゴブリンだから三匹?)には見覚えがある。
浮かんでくる俺の記憶が正しければ、次のセリフはこうなる筈だ。
「コリンおかしら!村人が落とし穴に落ちるのが楽しみですね」
そう言って、戦士風のゴブリンは木で出来た剣を振り上げる。
その言葉は、戦士というよりは山賊なんだがなあ……。
実際に、この戦士風ゴブリンは斜めのアイパッチに、頭にはターバンを巻き、髭を生やしている。
それは戦士というよりもう海賊だ。
「ウフフ、そうですよ!こないだはニワトリにいたずらしたり、卵を割ったりしましたね!あの時は楽しかったですね!」
そう言いながら、魔法使いのゴブリンはくるくると木の枝を回す。
ただ、気を付けなければいけないのは、ゴブリンは魔力というのがほとんど存在しない。
だから、このおてんば娘は、魔法使いの癖に、木の枝で村人を殴って遊ぶという武闘派。
戦士のほうがお似合いだが、なんで魔法使いの格好をしているかというと「かわいいんだもん」だそうである。
「あわわ、い、いたずらはどうかと思いますよ、勇者が近くにいるというし、下手したら殺されちゃいます」
そう言いながら、僧侶風のゴブリンは慌てている。
この僧侶風のゴブリンは、ゴブリンの中でも魔法が使えるタイプ。
しかし、僧侶の癖に、毒の魔法とか、眠りの魔法とかいう性格の悪いタイプの魔法を使う。
要は「陰キャ」という言葉がお似合いのタイプである。
俺は、そのセリフを一言一句、思い出すことができた。
この世界は、俺が死ぬほどやりこんだゲームである『ドラゴン・ファンタジー』という王道ゲームの世界であり、時間・場所はオープニングイベントなのである。
……っていうか、転生させるならゴブリンじゃなくて、勇者にさせろ。
転生させた偉大なる存在に対して、俺は心の中で不満をぶちまけていた。
◇◆◇
ここで通常イベントを進めた場合を説明する。
このイベントでは、村人が落とし穴に落ちるのだが、俺たちゴブリンの落とし穴の作りが悪く、村人は骨折してしまう。
それで怒りが爆発した村人たちが、勇者に対してゴブリンの討伐を依頼する。
俺たちは「俺たちが勇者だ!」といって、戦い始める。
そして、退治されて終わり。
退治される、というと、勇者目線になるのだが、ゴブリン目線だと「死亡」というのが正しい。
つまり、俺はゴブリンにゲーム転生した挙句、あっさり殺される運命にあるというわけだ。
俺はそれに気が付くと、三人に対して、怒鳴りつける。
「レオン、エレン、ドラン!ダメだ!落とし穴を仕掛けちゃだめだ!」
ちなみに、だ。
レオンは戦士風(海賊風か?)ゴブリンの名前、
エレンは魔法使い風ゴブリンの名前、
ドランは魔法使い風ゴブリンの名前、
である。
三人(三匹なのか?)は、俺の発言を聞いて、顔を見合わせている。
そりゃそうだ。
本来このイベントではコリン(俺だ)が言い出しっぺであり、「キシシ!」なんて笑いながら落とし穴を掘って、村人が落ちるのを想像大笑いするのだから。
しかし、俺はゴブリンに転生したからには、死ぬのはまっぴら御免だ。
「落とし穴に村人が落ちたら、俺たち死ぬんだぞ!」
そう叫ぶが、レオン(戦士風)、エレン(魔法使い風)、ドラン(僧侶風)は聞いてはくれない。
「コリンおかしら!何言ってるんですか!幻惑キノコでも食べましたか!落とし穴の計画はコリンが一番楽しみにしていたでしょう!」
そう言いながら、レオンは『これから村人が落ちる姿を見るのが楽しみで仕方ねえぜ』って表情で、俺を見ている。
「早く落とし穴に行きましょうよ~!そうしないと、村人が落ちるところをリアルタイムで見れないですよ!」
そう言いながら、エレンは杖を振り回している。
「そそそうです、僕も村人が落ちるのが楽しみで……それを想像するだけで……ぷぷぷぷぷ」
なぜかドランはもう既に笑い始めている。
そして、三人は落とし穴に向かって歩き始めた。
俺はそんな三人を見ながら考えていた。
――俺たち三人の死亡フラグを回避する方法を。
◇◆◇
というわけで、俺たちは落とし穴を仕掛けた場所に辿り着く。
俺を除く三人(レオン、コリン、ドラン)は、身を隠し、ワクワクしながらその様子を見守っている。
笑いがこらえられないのか、たびたび笑い声が漏れ出る声が聞こえ、そのたびに、お互いに「シーッ」ってしながら、笑いをこらえている。
俺は、そんな三人を見ながら考えていた。
そこで、薬師の娘が薬草を採りに来る。
この娘というのが実は村の中でも偉い娘さんで、それで村人が激怒するのである。
この流れを知っているゴブリンは、俺以外、誰もいない。
そりゃ当然である。
彼らはゲームの世界に生まれ、自分の与えられた運命を遂行しているのだから。
で、だ。
当初の問題である「村人が落とし穴に落ちないようにするにはどうしたらいいか?」という答えなのだが。
簡単だ――村人以外が落ちればいいのだ。
言い換えれば、俺が落ちればよい。
村人の娘が、落とし穴に踏み入れようとすると、俺は走り出す。
急に飛び出した俺にびっくりする三人。
「危ない!!!」
そう叫びながら、俺はその娘を押しのけ、そして落とし穴のある時点に足を付ける。
スボーーーーーーーーッ!
俺はそのまま落とし穴に落ち、身体を激しく打ち付ける。
三人の、緑色の顔が青くなり、そして困惑している。
娘は起き上がると、落とし穴を覗き込み、俺に向かって叫ぶ。
「大丈夫ですか!?」
俺は娘の問いかけに応えようとするが、頭を強く打ったのか、意識がもうろうとする。
三人は駆け寄り、娘と一緒に心配そうに落とし穴を覗き込む。
俺はそれを見ながら、親指をあげる。
まず一、死亡フラグの回避成功。
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