悪口

ボウガ

第1話

 Aちゃんにはトラウマがあった。最近同じ部活の生徒が、仲の良かった生徒が死んだのだ。Aちゃんの言葉を真摯に受け止めてくれる子だった。同じ口数の少ない同士で気が合った。だからこそ、あの時、何も知らずに助けられなかったことをくやんだ。


 その子、Cちゃんは、あとでわかったことだがクラスの数人にいじめられていたのだった、心をひどく病み、そして、あるときAちゃんと部活の生徒が話しているのをきいた。


 Aちゃんは悪口は嫌いだった。だから悪口をいう生徒の輪の中に入ることはなかったが、その時たまたま、部の掃除をしており、相槌をもとめられ、相槌をうった。その悪口は、些細なものだったし、決して同意の意味ではなかった。悩むように答えたのだ。Cちゃんのドジを批判する悪口を。


 CちゃんはAちゃんをひどく非難し、その足で高校前の道路につっこんで、そのままひどい事故にあって亡くなった。


 それから、Aちゃんはひどい夢を見るようになった。夢は徐々にひどくなり、エスカレートしていった。それなのに、朝起きると夢の内容を覚えておらずもやもやするのだ。その時、同じクラスで親友のBちゃんがある話をもってきてくれた。

「催眠にかけてみよう、きっと何かわかるかも」

「催眠?素人にわかるものじゃ……」

 それでも言い出したらとまらないBちゃんのことだ。すぐにとりかかり、Aちゃんは軽い催眠にかかった、甘い水を辛く感じるとか、Bちゃんの手を冷たく感じるとか、その日はそれで終わったが、異変はその次の日からおきた。


 現実がぼんやりとしだして、頭がうまく使えないのだ。おまけに、夢ももっとひどい悪夢を見ている気がする。AちゃんはBちゃんのことを疑いだした。BとCはそこそこ仲がよかったが、それでも時折、Cちゃんにはっきりしゃべれと強くいうこともあったし(Aちゃんもいわれたが)、あの自殺の件はことさら、何かを憤慨していたような気がする。


 それに、クラスの雰囲気もおかしかった。お互いにお互いの悪口をいっているし、得にAちゃんの悪口がひどい。Aちゃんは気にしていなかったが、その雰囲気事態が“作られたもの”に感じた。悪意が、自分の日常を満たしていくようだった。


 そして、その日はやってきた、ひどい眠気とぼんやりした日常を過ごすと、ぐっすりとねむる。BちゃんとAちゃんが高校の校舎にいて、Bちゃんに放課後よびだされたのだ。

「屋上で、あれの続きやろう?私、すごい力を覚えたの」

「力?」

 ぼんやりとした頭で考え、ふとおもった。

「暗示?やっぱり私に暗示をかけていたの?何か、私に恨みがあって」

 Bちゃんは首をかしげたが、にっこりとわらった。

「そうかもね、きっとそうだよ」

 そういって走り出したBちゃんの跡を追う。妙な感覚だった。このあとひどい悪夢に会う気がするし、解放されるような気もする。あの日もたまたま屋上にいて、はねられるCちゃん、その光景を目撃してしまったのだから。吐き気におそわれながらも、Bちゃんの後を追う。


 階段を登り切り顔を上げると、Bちゃんは、屋上の扉の向こうにいて、その後ろに恐ろしい光景がひろがっていた。屋上にはずらりと、大勢の生徒たちがゴミ袋をかぶせられ、後ろでに縛られ、身動きが取れなくなっているのだ。


BちゃんはAちゃんをみつけると、笑った。

「あなた、あなたのせいよ、あなたは本音をいわないのだから、それどころじゃない、口数がすくなく、大事な時に大事なことをいわなかった、そしてこんなことになった、あなたの言葉が強いせいで、みんなその一言をきにしてしまう」

「!!?」

「けれど、いい方法があるわ、こっちにきなさい」

 Bちゃんは、手に拳銃をもっていた。夢の中とはいえ、自分が死ぬ想像をするのは怖い。それに、彼女のそばにはカラスが頭を打たれ横たわっていた。仕方なく彼女に近づいて行った。


「いい?Aちゃん、私があなたの悪口をいうわ、それにあなたは早く答えるのよ、もっと強い悪口をいうの、そうすれば、私は彼女たちを殺すのをやめる」

「!?」

「私は、あなたと同じ力を得た、私は人を言葉で殺せる、試してみる?」

「おい、そこのごみ袋かぶっててもわかるブス」

「ギャッ!!」

 一人の女生徒が血を流して倒れた。

「ウソでしょ!?」

 Bちゃんは近づく勇気もないが、血はほんもので、匂いまで強烈なものだった。

「どうして?夢だからって、こんな……」

「あなたがいけないのよ、早く気持ちを切り替えないから、こんなに素晴らしい力があるのに」

「でも……」

「おい、そこのでぶのぶりっこ」

「ギャア!!!」

 また一人の生徒が血を流して倒れる。

「はははっ」

「何が楽しいの?」

「あんたが何もしないのが楽しいんじゃない」

「私が何かしたら、余計に人が死ぬじゃない!私が悪口を言った人は死ぬんでしょ」

「それだよ、なあ?高校生のくせに、厚化粧してる“オバサン”」

「うぐっ!!!」

 また別の生徒が血を流して倒れた。Bちゃんは、Aさんの肩を撫でた。

「いい?あなたの言葉で人がしんで、それが何だっていうの?それで助かる人もいるのよ、自分の影響で世界に変化が起こることを恐れてたら、あなたは呼吸することだって苦しくなる」

「でも、それでも」

「それじゃあ、あなたの周りからはどんどん人がいなくなるわよ」

 Aちゃんは思い出した。最近の現実の不調の原因を、Bちゃんが人の悪口をいうと、その人が彼女たちの生活圏内から姿を消すのだ。まるでそれまでも全く存在をしていなかったかのように。ひどく汗をかいた“またあれが起こるのではないか”。それが起こるたびに、Aちゃんの頭はぼんやりとしてくる。汗がでて、息が苦しくなる。もしかしてBちゃんは、Cちゃんが乗り移っていて、自分を殺そうとしているのではないか。この夢は、夢の中で自分を殺そうとしているのではないか?


 Aちゃんがまた息を吸った。

「早くいいなさいよ、あんたの本心を!!!」

 そう呼びかけたが、すでに悪口を言うと思っていたBちゃんは、その言葉をかき消すように、Bちゃんの悪口をいった。

「ぺちゃくちゃぺちゃくちゃうるさいんだよ!!!いつも私が思ってないことを全部口にして!!そんなに私のこときめつけたら、誘導尋問みたいでしゃべりずらいでしょ!!みんな!!」

 Aさんは叫んだ。だが、Bちゃんも、屋上の誰も死ぬことはなかった。

「なんで?」

 Bさんは、突然笑い出した。

「ははははは!」

「どうして、私を、だましていたの?」

 よくみると、先ほどゴミ袋を被されて倒れていた3人の子も、体をおこしゴミ袋を外して、自分のそばにむかってきた。流れていた血は、血のりのようで、血色もまるで悪くなかった。

「おめでとう、やっといえたね」

「そうだよ、これできっと、変われたはずだよ」

 Aさんは驚いた。いったい自分に何をさせようとしているのか。これで、現実に戻ったら同じことが起きるのではないか。

「Aちゃん、この夢はね、実験的に私たちの夢とつないで、同時にメタバースともつないでいるのよ、Aちゃんあれからずっと、放課後Cちゃんが亡くなった道路によっていたでしょ、でもあなたは気にしなくていい、私の悪口だっていってもいい、なぜなら、あんなことは二度と起こらないから」

「どうして?私にそんな事を伝えるためにここまでしてみせたの?それに、最近の不調は?」

「現実でのあなたは今、実験室にいる、心の問題を解決するためにね、それでもあれからまだ1週間もたっていないのよ、あなたはひどいPTSDの状態にあったから、私たちは実験に参加することにしたの、それで、あなたの問題を解決することにしたのよ」


 そして、Aちゃんは話をきいた。自分のクラスが全員人の悪口をいっているというのも作られた状況だということ、毎日学校にいくがほとんど頭に入ってこないのも、ほとんどを夢の中で生活していたせいだということも。自分がこの実験に参加する前に引きこもっていたこともきいた。そして、AちゃんはBちゃんにこういわれるのだった。

「もう、あなたが恐れていることはおきない、それでもあなたにとって、自分の言葉は怖い?」

 Aちゃんは、にっこりと笑った。

「私はもっとしゃべることにする、人を傷つけない綺麗な言葉で」

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悪口 ボウガ @yumieimaru

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