第42話 捜索と叱責。
〜 ゴートヘルフ視点 〜
私は夜の闇に紛れてエリアナが隠したドレスを探しに行った。
回収しないともったいないとかではなく、人に外で見つかると都合が悪いからだ。
裸で拉致されたなど勘違いされたら外聞が悪いどころではない。
妻の名誉にかかわる。
──しかし……猫の姿になったエリアナが皇太子に抱かれているのを見た時は見つけられてよかったという安堵もあったが、同時に怒りがこみ上げて来た。
何で先にあいつが見つけているんだと。
ヒイズル国との交易話の後に部屋に戻るとエリアナがいなかった。
メイドに行方を聞くと光る川の事が食事の席で出たから見に行ったかもしれないと。
当のメイドと言えば衣服の洗濯で忙しそうにしていたから、共を出来なかったようだ。
洗濯とか後でもいいからついていてやってほしかった。
まず捜索途中で竹筒の水筒が茂みの近くに落ちていたのを見つけた。
液体は少しは残っている。
次に探すはドレスだ。
あ、大きな木と言っていたから、あれかな。
目星をつけた木の根元を探ったらドレス一式が出てきた。
下着と靴はまだ洗えば使えるだろう。
ドレスはかなり引きずったから洗うより燃やして処理してしまったほうが早い。
買いなおすのは全く問題ないのだが、エリアナは人からもらったものを大切にするから泣くかもしれない。
猫の姿でも泣いていたしな……。
俺はヒイズル国からもらった風呂敷という広い布に物を包んで自分達の部屋近くの庭に戻った。
そこで火魔法を使ってドレスを一気に燃やし灰にした。
証拠隠滅だ。
火の気配に警備の兵士が驚いて様子を伺いに来てしまったが、手紙を書こうとした時に服にインクを零したから焼いたと適当に言い訳をした。
「不要になった衣類はゴミ箱に入れたらこちらの下女が始末するでしょうに」
「驚かせてすまない、大変かさばるからゴミ箱がいっぱいになってしまうと思ってな」
「そ、そうですか、しかし庭で勝手に焚き火をしないでください、驚きます」
「すまない、今度からは声をかける」
私はヒイズル国が用意してくれてる貴賓室に戻った。
案の定、エリアナはまだ猫の姿のままで落ち込んでいた。
「ドレスは庭園で焼いてきた。下着と靴は洗えばまだ使えるからそこの包みに」
ぽかぽかとかわいい猫ぱんちをされた。
全く痛くはないが。
エリアナが慌てて包みを解いて下着を咥えてゴミ箱に捨てた。
あ、あれを見られるのが恥ずかしかったのか。
「すまない、それはメイドに渡してくるから」
「シャーッ!! フーーッ!! ニャーーッ!!」
どうやら私に下着に触って欲しくないらしい。
猛烈に抗議されている。
「しかし万が一、変態がゴミ箱からエリアナの下着を持ち去ると私的には嫌な……」
「シャーーッ!!」
毛を逆立てて威嚇されている……。
少し哀しいが、たしかに洗濯後ならともかく脱いだ下着を男に触られたくはないかと、納得した。
「わかった、わかった、私はもうそれに触らない。とにかく猫化が朝までにどうにかならないとしばらく洗濯をしてくれるメイドもこの部屋に呼べないだろう」
「うなぁ……」
とりあえず飲み物の成分分析だ。
確か侍女が転移の為に皇室筆頭魔法使いに金を積んで移動させていたわけだから……そいつの部屋に行こう。
部屋に行くとやつはもう帰り支度の最中だった。
危ない!!
「待て待て、そなた。帰る前にこの飲み物にどんな危険なものが入っているか調べてくれ」
「これですか、ふむ……しかし少々お値段がしますが」
さてはこいつ金を積むとわりと無茶をきくタイプか。魔法使いは研究費用のためなら平気で人の道に外れるやつも多い。
「金なら払う、頼んだぞ」
私は持ってきた小切手に十分な金額を書いた。
それを見た魔法使いは満足げな笑みを浮かべた後に、指で魔法陣を描き、それを展開して成分を分析しているようだった。
器用なやつだ。
「はい……出ました、これは体内の魔力バランスを乱す魔力を持つ果実が使われてますね」
「魔力を乱す? 具体的にそれを飲むとどうなる?」
「飲んでしまったら二、三日寝込むかと思われますが、死にはしないはずです」
「二、三日は影響があるのか」
「普通の魔力量の者であれば、恐らくは。しかしゴードヘルフ様なら1時間もあれば回復なさるでしょう」
それでエリアナの呪いへの魔力抵抗が弱まって満月でもないのに猫化をしてしまったのか。
ところでこれを直接渡してきたのは侍女と共に本国から来た騎士のようだが、本当にヒイズル国の者が渡してきたのだろうか?
いや、それはヒイズル国の者に聞くと分かるか。
そして一旦部屋に戻ってみると、エリアナは風呂敷の下で、神社で買った御守りを抱えて不貞寝していた。
朝を迎えたらエリアナは幸い、元の人間の姿に戻った。
エリアナが最初にしたのはゴミ箱の中の下着を取り出してランドリーボックスに入れることだった。
「お、おはよう、エリアナ。元に戻れてよかったな」
恥ずかしいのか、エリアナの顔は真っ赤だった。
「はい、とりあえず本当にこの飲み物をくれたのがヒイズル国の者だったかが気になります」
「ちゃんと調べるから安心しろ」
調査の結果、ヒイズル国はそれを渡していないということがわかったし、あの騎士が実は侍女に頼まれて渡したということも判明した。
どうもギャンブルの借金があり、令嬢が金を握らせてやらせたことだった。
当然責められる令嬢。
だが、侍女の悪さなので私より先に皇太子が直接叱責した。
「エリアナはあれのおかげで一晩寝込んだそうだぞ!」
「も、申し訳ありません、人妻なのに殿下の寵愛を受けているのが許せなくて、ちょっと困らせようとしただけで……」
「アレが死に至るものだったら処刑ものだとわかっているか!?」
「あ、あの使った果実ですと、軽く痺れる程度だと訊いております……」
あれ? 魔法使いの言う二、三日寝込む話とだいぶ違うぞ?
令嬢も誰かに騙されたのか?
それとも言い逃れの為の嘘か?
「とにかく! 本国に帰って謹慎だ! 侍女も辞めてもらう!」
「そんな! お許しください! 本当に少し痺れる程度かと思って」
「そもそも直接私を座標に他国に飛んで来るのも外交問題になるんだぞ!」
「そ、袖の下はきちんと渡しましたの。皆大好きな黄金を……」
「それが通じない清廉な者もいるだろうに!」
「そ、そんな人はめったにいませんわ!
特に権力者の周りには!」
「ああ、もういい、ギャンブルに溺れた愚かな騎士と一緒にこの者を連れて行け!」
「ああっ皇太子殿下! お許しください!」
私もあいつらに怒ろうと思ったが、言いたいことを皇太子殿下が先に言ってしまったので出番がなかった。
とりあえずエリアナが一晩で戻ったので、処罰は後で……。
新婚旅行で処刑は縁起が悪い……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます