第40話 混乱

 男性達が外交の話をつめている時、私は新しく迎えるヒイズル国出身の料理人とする予定の未亡人と少年がこちらの滞在先についたとの連絡を受けました。


 そして顔を合わせてから、彼らの部屋を用意したり、あちらに行った時に簡単な挨拶会話くらいはできるようにと、直接教えたりしました。



 夕刻。

 食事を終わらせて私は宮の庭園に出て、夕涼みの散歩に出ました。


 食事の席で皇太子殿下を追いかけてきた護衛や侍女達と少しお話したら、この宮の裏側の林に光る川と言うのがあるとうかがったので、興味を惹かれたのです。


 宮の敷地内ならいいかと、私は少し一人で移動しようとしていました。

 光る川への道は灯籠をたどればいいらしいので、そう迷うことはないと思いました。


 途中で護衛騎士の方に会って、竹筒に入った飲み物をいただきました。



「夏ですし、水分補給にと宮の使用人がいくつか果実水をくれたのです、よければどうぞ」

「ありがとうございます」


 竹筒の水筒が風流でヒイズル国らしいなと思いました。


 しばらく林の中を歩いていると、喉が渇いたので竹筒の水筒の中の飲み物を飲みました。


 甘い香りの飲み物でしたが急に目眩と、それから胸に傷みが走りました。


 でも助けをもとめようと思っても周りに人はいません。

 広い敷地な上に夕餉の後です。

 ほとんど屋内にいるのかも。


 もしや知らない果物のアレルギーがあったのかと

 私は痛みにうずくまりました。


 すると、なんということでしょう。

 ね、猫化の呪いがこんなタイミングで発動しました!


 小さな猫になってしまった私は己が着ていたドレスから抜け出しました。


 地面についたドレスを見て、悲しくなりました。

 せっかく旦那様が買ってくれたドレスが汚れてしまいます!


 更にこのまま衣服のみ見つかってしまうと大変です!

 私本人が行方知れずだと全裸で拉致されたと思われ、悪い噂になってしまいます!


 私はパニックになりつつも、ドレスが隠せそうな場所を探しました。

 すると大きな木の根元にそこそこの穴を見つけました!


 私は猫の姿のまま、地面を引きずり汚れるドレスを口に咥え、涙を流しながら穴の中に入れました。


 靴も下着も隠さなければいけなくて、ほんとに大変でした。


 木の根元に衣服を押し込んだあとは木の枝を拝借して蓋をしました。

 表から見えないように偽装です。


 猫化した後はほとんど混乱と悲しみだけです。

 先程の奇妙な胸の痛みや目眩などの体の苦痛は消えましたが。


 急に猫化してしまった為にドレスがだいなしになったのはとても悲しいですが、痛みで倒れるよりはマシだと思うしかないです。


 しばらくして、感じました。

 人の気配を!


 私を探しに来た旦那様かと近づくと、違いました!



「おや、なんて綺麗な白銀の毛並みの猫だ!」



 急に皇太子殿下に見つかって捕獲されました!


「にゃ〜っ! にゃああん!」


 離して! 離してください! と、猫語で叫んではみましたが、


「よし、かわいいから私のペットにしてあげよう!」


「うな~〜っ!!」


 やめて〜〜っ!!


「はは、そうか、嬉しいか!」


 違います!


「まあ、皇太子殿下ったら、無闇やたらと野良猫に触ると汚いですわよ、ダニでもいたらどうなさるの?」


 次に出てきたのは皇太子殿下を追いかけて来た例の侍女! ダニはいません!! 失礼な!

 さっきまで人間だったのですよ!



「でも毛並みがとてもいいし、ダニなどいないと思うなぁ、でもとりあえず部屋に連れ帰ってお風呂に入れるか」


 お風呂!? 私、皇太子に入れられてしまうの!?

 そんなこと旦那様にもさせてないのに!?

 いえ、さすがに侍女か使用人よね!?



「エリアナーーっっ!!」



 はっ!!

 近くで私を探す旦那様の声がします!

 まずいです!

 私が行方知れずだと皇太子殿下達に知られてしまいます!


「あれ、小公爵が叫んでいるな?」

「奥方を呼んでるいるようですわねぇ、もしやこの林で迷子になられたのかしら?」


 私は皇太子の腕の中から逃れようと暴れました!



「ニャニャア!!」

「おいおい、落ち着け! 落ちる! おい誰か蓋付きの籠を持て!! 呼吸できるやつだぞ!」



「ああっ!!」


 旦那様がこちらに来て驚の声を上げました。

 猫になっている私と目が合いましたので……。




「おお、クリストロ小公爵、どうした? まさかミズ・エリアナが行方知れずか?」


「い、いえ、猫のエリアナを探しておりました、殿下、その子は私の猫です、お返しください」


「は? あの船旅では猫など連れて来てはいなかったじゃないか」

「籠の中にて大人しくさせていたのですが、本日脱走したようです」

「まぁ〜、小公爵様は猫に愛する妻と同じ名前をつけておられるのですか? 流石に紛らわしいのでは?」


 侍女が図々しく会話に割り込んできてしまいました!


「悪いですか!? とにかく私の猫なので、殿下、お返しください」



 普段紳士な旦那様が逆切れの様子です!



「この猫が君の猫であるという証でもあるのか?

首輪もしていないのに」



 ちよっと皇太子殿下!!

 しつこいですよ! そんなに猫好きだったんですか!?





















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