第38話 遠い異国に

 温泉宿からの帰り道、近くの神社で神楽舞をされるらしいので、それの見物にも行く予定なので朝から出発です。


 通り道には青い葉を風に揺らす田んぼ。

 天気は快晴で、青い空には白い入道雲。

 蝉も鳴いているし、大きな水牛もいてのどかな風景です。


 ちなみに私は一人で馬に乗れないので、旦那様と一緒に乗っています。

 私が手前に乗っていますが、手綱は旦那様が持っています。


 大変近くて未だにドキドキです。



「馬さん、2人も乗って重いでしょうね、私のせいで」

「エリアナは軽いし、逞しい馬を借りてるから大丈夫だ」


 しばらく馬に乗って土手の緑も鮮やかでキレイだなぁなどと思いつつ移動していると例のビクを作ってあげた少年がまた川辺にいたので声をかけました。



「おはよう! 調子はどう?」

「今日の魚は少なめ! でもおかげ様でふせってた母ちゃんもドジョウ食べてわりと元気になれたよ!」



 !!

 母ちゃん……のみ?

 お父さんは食べていないのでしょうか?



「お父さんは?」

「父ちゃんは戦で死んだ。そんで母ちゃん一人で働いて俺を育ててくれてたけど体を壊して働きに行けなくなったんだ」



 ああっ! そんな理由が!

 戦争があったのですね!



「辛い話をさせてごめんなさいね。それと差し支えなければ聞かせて欲しいのだけど、あなたのお母さんはなんの仕事をしてたの?」

「温泉宿の厨の手伝いだよ」


 あっ!! もしかして私が泊まったお宿の!?

 不思議な縁を感じます。



「と、いうことは料理が得意だったりするのかしら?」

「材料さえあれば母ちゃんは料理得意だよ」



 ……。

 あのビクがあれば以前よりは食べ物が手に入るかもしれないけれど……捕れない日もあるかもしれない……。

 飢えてまた倒れることがあるかもしれない。



「あなた達親子は、外国の生活に興味はあるかしら?」

「え、お姉さんの国?」

「そうよ、私の住んでいる国。あ、今更だけどお名前と年齢も訊いていい?」


「俺の名前は航矢で年は十。異国は……気にはなるよ、俺はこの村から出たことないし、広い世界を見てみたい」


「コウヤ君、十歳ね。私ね、味噌や醤油を扱い慣れている料理人を雇いたいと思っていたの、あなたのお母さんがお料理が得意ならちょうどいいと思って」


 と、言って旦那様の様子を今更長良視線で伺う私。


「私は反対しないぞ、エリアナが専属料理人の一人や二人雇ってもいいと思う」

「ありがとうございます!」


 さすが旦那様です。お優しい。

 特に私にはとても甘いのを自覚してきました。

 悪いことかもしれませんが、人助けになるならギリギリ許されると信じたいです。



「えっと……料理人が欲しいんだね。母ちゃんに訊いてみないとわからない」

「それはそうよね、お母さんに訊いてみてくれる? あなたと二人とも異国になるけどうちで引き取れる、住まいと仕事を提供できますって」


「うん!」


「えーとね、私達はしばらく神社の神楽舞を見ているから」

「この魔法の鳥を貸しておこう、返事を口で話せば伝わる……料理人になるために異国に渡ることが了承ならば迎えをやる」



 旦那様が魔法の鳥を召喚して、少年の肩にふわりと、止まらせました。



「わかった! この鳥に話せばいいんだね!」

「おい、分かりましたと言え、無礼だぞ」

「あっ、ごめ……んなさい……っ!」

 

 通訳の宝珠を持った案内の方が少年を嗜めました。 

 案内の人! 少年が怯えるでしょう!



「平民の子だから貴人への話し方を知らないのです、許してあげてください」

「夫人がそうおっしゃるならば」

「さ、我々は神楽舞の神社へ向かいましょう」



 なんとか案内の人を宥めることができ、私はまた出発を促しまして、神社に来ました。


 見物席に座ると巫女さんが甘酒を振る舞ってくださいました。

 甘くて美味しい!


 舞台の上で冠を被った巫女が華やかな神楽舞を披露してくれました。

 雅な笛の音が心地よいです。


 神楽舞は神聖で厳かな雰囲気がとても素敵でした。



 そして神社には食べ物を売ってる出店も少しだけありました。

 甘味の団子やおまんじゅう、そしてごはん屋さん。


「旦那様、何か食べましょうか?」

「甘くないのかな」

「ではあのおにぎり屋さんに」


「きゅうりとカブの漬物とおにぎりです」



 塩で味付けしているおにぎりはとても美味しいです! 

 シンプルですが、その分お米の旨味が感じられます。


 それとお土産に神社で売っている安産のお守りと無病息災と書いてあるお守りを購入しました。安産のお守りはミカドの妃用です。



 ややして魔法の鳥が飛んで来ました。

 コウヤ達は思い切って異国で頑張ってみることにしてくれたようです。


 そしては母子を迎えにやることにしました。

 


「とりあえずヒイズル国の方にも人間を二人ほど料理人として本国に連れて行くと許可をもらうか」



 支配者クラスの方は平民の一人や二人、いなくなっても気にしない気はしましたが、確かに旦那様の言われるとおり、一応確認はしたほうが無難ですね。



「分かりました、文を出します」



 皇后様が私の贈った悪阻の時でも食べられる料理一覧の文のお陰で大変助かったということもあり、ヒイズル国の人間を連れていくこと、あっさり許可はおりました。


 後日、直接御礼を言いたいとおおせなので、お茶の会があります。









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