第28話 船旅で

 この船旅はヒイズル国に直行するわけでもないので、途中で別の国に寄ったりもします。

 それで物語の朗読を聞かせていた子供と両親も下船してお別れしたりもしました。


「お姉さん、いっぱいお話聞かせてくれてありがとう!」 

「ほんとうに助かりました」 

「感謝します、レディ」



 そんな感謝の言葉ももらえました。

 誰かの役に立てて嬉しいです。


 そしてとある島に近づくと、また船員さんのアナウンスがありました。


 水や食料の補給の為に一旦碇泊しますと。


 久しぶりの陸の上で一息つく方がほとんどです。

 私達もしばしの自由時間があり、島に降り立ちました。


 そこにはパパイヤの木が自生していました。

 長身の旦那様がそこら中に生えているパパイヤの木を見上げ、興味深そうにしています。


「こちらには実がついてないな」



 あ、それはパパイヤの雄の木です。

 オスの木は線香花火のような花をつけています。


 まず、線香花火を私は夢の図書館の本で見ましたが、他の人にはおそらく通じませんので、簡単に説明します。



「旦那様、そちらはパパイヤの雄の木です。実はつけずに花をつけます」

「ほお、ではこちらの実のついてるやつ、食べられそうだがこれは採ってもいいのかな?」


「そのパパイヤは食べられますよーどうぞー」


 通りすがりの現地の人が保証してくれました。


「野生のものなのでいいみたいですね。

実を手で掴んで捻りながら採ってみてください。

ハサミがなくても取れるはずです。

あ、黄色っぽくなってるやつから優先的にどうぞ」


 旦那様は言われたとおりに黄色い実をぶちっと、音を立ててもぎりました。



「エリアナ、黄色いのではなく緑色のだとどうなるか知っているか?」


「そちらだと熟れてるものよりおそらく甘さが足りないので炒めものや煮物料理に使うことが多いようですが、サラダにしてシャキシャキ感を楽しむ食べ方もあるとか」

「なるほどなぁ」


「その実は豊富なビタミンの他、食物繊維、ポリフェノールも含み、パパイア特有のパパイン酵素でたんぱく質、糖質、脂質を分解する働きがありますから、痩せたい人にもいいらしいのですが、旦那様は太ってないので関係ありませんね」


「若奥様! 今、なんておっしゃいました!?」


 急に私の背後に控えていたメイドがすごく真面目な顔で会話に混ざってきました。


「ビタミンと食物繊維とポリフェノールが豊富なの」

「そういうわけのわからない難しい単語ではなくてですね」


「旦那様は太ってないので必要ないと」

「その前です!」

「痩せたい人にもいいらしいと」

「それです! なるべく沢山いただいていきましょう! そして私は甘くない緑のを!」


「そ、そう、それもいいと思うわ」


 私が後押しすると、メイドが急に我に返って恥入ったのか、小声になりまして、


「船に乗ってる間は食べるばかりで、太ってしまいますの……」。


 と、赤くなって告白し、己で緑のパパイヤを収穫していきます。粛々と。


 な、なるほど! 確かに体重とか腰回りのお肉のつき方とか、気になるお年頃ですよねと、納得したりしました。

 なにしろ船上ではそんなに動き回ることもないですし。


 そしてせっかくなので私達公爵家の者達は島で海鮮メインのバーベキューをしました。 

 新鮮な海の幸が美味しいです!

 特に海老! プリプリです!


 旦那様は熟れたパパイヤを食べてました。


「なかなか甘くてジューシーだ」


 だそうです。

 体型を気にしてるメイドにはパパイヤサラダと現地調達した豚肉と炒めた青パパイヤを出してみました。


「ふふふ、これで痩せます……」

 


 メイドがそうぶつぶつ呟きながら笑っています。


 実際のところ、パパイヤを少し食べるだけより運動の方がダイエット効果は多分あるとは思いますが、気休めにはなる……わよね?

 なにしろ船の中で走り回る訳にはいかないので。


 

 陽が暮れてきて、美しい夕陽も見ることができました。

 島で見る夕日は格別ですね。

 海に映る照り返りが本当に美しいです。


 私は記念に砂浜で綺麗な貝殻をいくつか拾い、旦那様も貝殻探しを手伝ってくださいました。

 

 輝く海と、優しく微笑む旦那様が眩しいです。

 いい思い出が増えました。














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