第20話 初夏のピーチメルバ
夢の中の図書館では早速私と同じ世界、同じ大地の事柄、主に植物や食材について書かれている棚の前に来ました。
ずらりと並ぶ背表紙を見渡し、淡く光ってる気がする本を手に取りました。
このように光って見える本が大抵、その時に探し求めている本だったりします。
これは経験則です。
私は本を大事に抱えてテーブル席に向かい、椅子に座り、慎重にページをめくっていきます。
お米発見! 味噌と醤油も発見しました!!
やりました!!
龍の形をした島国にあるようです!
この島は縦に長いですね。
でも、極東の島ですか、私、行けますかね?
例の小切手があれば船も手配できるとは思いますが。
あ、念の為、船酔い防止の薬草も調べておきましよう。
とっても強いクリストロ公爵家は魔物退治が主な仕事で、社交はあまりいらないという話ですから、船旅に出てもいいですよね。
たまに皇室から横槍入りますけど、基本的にはいらないはず。
そう、おっしゃっていました。
冒険もしてみたいと思っていましたし!
反対されなければ行ってみたいです。
あ、船酔い防止の薬草も見つけました。
これでなんとかなりそうです。
そして、本の中に書いてあった内容を脳内で繰り返し呟いていたら、目が覚めました。
慌てて忘れないうちに日記にメモを書きます。
ヒイズル国。お米の名産地がトウホークという地にあり、醤油がクローダチクゼンという地にあり、味噌がナガーノという土地のようです。
でもミヤコという所に王、この国ではミカドと言う偉い人が住んているので、そこに行けば全て揃うようです。
目指すはミヤコです。
侵略じゃなくて買い物に来ただけですと言えば入国を許されるでしょうか?
何を手土産にすればミカドが喜ぶのか、それも調べて来ればよかったです。
あ、そうそう、酔い止めにはアメートロフとかいう薬草が効くそうです。
朝食の時間にお義父様に船旅をしてもいいか相談……してみます。
もちろん旦那様にもお手紙を書きます。
とはいえ、まだ早朝です。
逸る気持ちが抑えられず、落ち着かない私は新しいフルーツをバルコニーのいつものところにセットしてから、庭園に散歩に出ました。
朝日を浴びて、下生えの緑も綺麗に輝いています。
気持ちの良い朝で、できれば旦那様と一緒に散歩したい……などと考えていると、偶然にも庭に実っている桃を収穫に来たと言う奥様と遭遇し、誘われたのでご一緒しました。
私は背が低いのでドキドキしながら脚立に乗ります。
でもお母様が脚立をしっかり支えてくださっています。
お優しいです。
収穫したのは小ぶりの可愛いらしい桃です。
甘い香りが本当に素敵。
桃を入れたカゴを腕にひっかけて、庭を通り抜ける間、地を覆うクローバーの花の側では蜜蜂が飛び交っているのを見かけます。
せっせと蜜を探しているのでしょう……蜜蜂さん、お庭にお花があって良かったですね。
朝食の場では、意を決して私はお義父様とお義母様に食材探しの旅に出たいと申し出ました。
とても驚かれました。
素材を商人に頼んで取り寄せたほうが安全ではないか? と、もっともなことを言われました。
「ともかく、エリアナ。
旅の件は安全とは言えないから、君の夫であるゴードヘルフが帰って来てから、改めて相談してみなさい」
「はい、そもそも旦那様にはお手紙を書くつもりでしたが、わかりました」
◆ ◆ ◆
お昼のデザートには朝に収穫した桃を使い、桃の冷たいおやつのピーチメルバを作ることにしましたので、また厨房に突撃しました。
料理長に相談です。
「え? 桃のコンポートにバニラアイスを添えるのですか?」
「はい、ピーチメルバというスイーツです」
「ピーチメルバ……メモをとってもよろしいですか?」
「はい、レシピはお教えしますが、門外不出でお願いしますね。レシピは必要な時に、売ろうと思えば売れますので」
「かしこまりました!」
バニラアイスを器に盛り、アイスの上に桃のコンポートをのせる。
そして仕上げにラズベリーピューレのソースを桃の表面にかけ完成!
「ああ、これは……素晴らしい、初夏にふさわしいデザート! 職場がここで本当に良かった! 若奥様は幸運の女神のようです」
それは言い過ぎです。
「ええ、料理長、自分もここで料理人をやっていて良かったです!」
「ほんとに! 香りも素敵です!」
でも試食した料理人達にも好評で良かったです。
さて、サロンでお義父様とお義母様と待ち合わせをしていましたので、ティータイムにピーチメルバをお出ししました。
「まあ、これ、見た目も香りもいいし、とても美味しいわ! 冷たいアイスと桃が絶妙に合うわね」
「これは……御婦人達のお茶会にでも出したら大人気だろうな」
「でもあまり社交はしませんから」
「エリアナがしたければやってもかまわないよ」
うーん、でも、料理が良くても私はちんちくりんのままですし……。
物笑いの種になりそうな……。
「また料理人を交換してくれと言われたら困りますし」
「そ、それは、確かに」
「あ、でもどうしても欲しい物や食材がある領地が存在したら、交易をスムーズに行うためにも仲良くすべきとは思いました。それと逆に、特に悪くもないのに天災に見舞われ、飢饉で助けを求めている、あのウーリュ家の領地とか」
「そう言えばそこから公爵家に感謝状が届いていたよ、金と食料を送ったから」
お義父様が今、思い出したと執事に合図をし、素早くトレイに乗せて持ってきてくれたので手紙を受け取りました。
「良かったですねぇ、マリカ嬢もとても健気な方でしたし」
さて、ウーリュ家からの手紙を読んで、これから私も旦那様にお手紙を送ることにします。
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