第11話 夢の中の図書館
旦那様が困窮中の男爵領に支援金と小麦を送ってくださるし、農薬に必要な竜種の血液までも送ってくださると聞いてマリカ嬢は安堵した顔で帰る事になりました。
「帰りの路銀と用心棒代だけ渡しておきますね。
不安なのでちゃんと帰路では護衛を雇って下さい。
でも大金を持たせるとやはり帰り道が怖いので、そちらの領地の銀行に送金ということになるそうです」
「はい! エリアナ様、何から何までありがとうございます!」
「お、お金を出してくださるのは旦那様なので私は何も」
「エリアナ様が我が領地を気にかけてくださったおかげですわ!」
ほとんど自領の為にもなるかもしれないと言う理由で伺っただけですのに。
でもこれで公爵家に友好的な領地が増えるならいいことなので、訂正するのはやめておきましょう。
「ご無事にお帰りを」
「はい!」
お互いに笑顔でお別れしました。
「エリアナ、帰りに神殿に寄って行こうかと思うのだが」
「はい、旦那様」
「じゃあ兄上、姉上、俺は先に帰ることにしますから」
「ケビンは銀行の手続きと小麦と血液の送る手配を頼む」
「ええ……兄上、それ俺の仕事ですか?」
「すみません、ケビン様! 私がやります!」
私がそう言うなり背後で冷たい気配が立ち昇る!
ちなみに私の後ろには旦那様が立っていますが。
「いいえ! やはり兄上、私がやらせていただきます! これも勉強と人助け!」
「最初からそう言え」
旦那様が、睨みを効かせてケビン様を走らせました。
私のせいでケビン様にはとんだとばっちりのような……。
何かこんど詰め合わせを考えないと!
それにしても馬車に乗り込んで、今は神殿へ向かっておりますが、寄付でもなさるのでしょうか?
と、思っていましたが、
「大神官に面会を」
と、旦那様がいきなりお偉い方を指名されました。
しばらくして大神官のおられる場所に通されました。
そこは祭壇のある個室でした。
先端に大きな水晶玉がついた杖が祀られるように置かれてるのが印象的です。
大神官様は白く長いお髭のおじいさ……いえ、70代くらいの男性でした。
側には年若い巫女と神官も側仕え的におられるようです。
「小公爵様、ようこそおいでくださいました。さて、本日はどのようなご用件ですかな?」
「その前に人払いを頼む」
「左様で」
すぐに大神官様が目配せすると側仕えの神官達は退室しましたが、お茶のたぐいは呼ばなくても既にテーブルの上に置いてありました。
「大神官よ、とても大事なことなので絶対に他言無用で頼む」
「承知しております」
「彼女の、妻のエリアナには特別な権能があるように思えるが、彼女はどうやら家で隠されるように生きていて、洗礼式も受けてないようなのだ」
隠されるように生きていたのは事実です。
でも私が洗礼式をも受けさせてもらえてないのをよくご存知で……。
「なるほど、では今からですと多少略式となってしまいますが洗礼式をさせていだだきます」
え!? 今から!? 急に!
「ああ、頼む」
「では、奥様、そこの丸い魔法陣付きの絨毯の上に膝を付いて祈りの為に両手を組んでください」
「は、はい」
私が丸い絨毯の上に膝をつくと、聖水を手にした大神官様が私の前髪をかきわけ、おでこを出したと思えば額に聖水をポタリと垂らしました。
その後、水晶付きの杖を手にして私の額にかざし、何かの祝詞のようなものを唱えました。
それから……目を閉じてなにかを探っているようです。
「青い……青い螺旋……長く……深い……本……巻き物……本棚……文字、おびただしい数の情報……ああっ……これは……っ!」
かっと大神様が、目を見開いたと思えば……ガクッと突然ひざから床にくずおれました!
「大神官!?」
「だ、大神官様! 大丈夫ですか!?」
慌てて大神官様を支える私達。
「アカシック……ビブリオテーク……」
大神官様は掠れる声絞り出したそれはアカシックという聞き慣れぬ単語。
「アカシック? なんだって?」
「ぜ、前世から未来までのおびただしい情報が記録されている天上の図書館や人生の書などとも言われているもの。星、人類すべての歴史の出来事についての情報が網羅された貴重な図書館を見れる特殊な権能です。あまりの事に……腰を抜かしました、面目ない」
「ええ? 私の夢の中の図書館てそんなに……」
「そんなに凄いものだったとは」
「夢の中の図書館と申されましたな、夫人にはすべての本の情報が見れるのですか?」
「いいえ、立ち入り禁止の区域はあります。天使様が、司書のような事をされていて、厳重に結界を貼られた扉付きの部屋があり、そこはあまりに凶悪で危険な武器の情報があるので閲覧禁止だとおおせになりました」
「なるほど」
「よかった、危険な情報が閲覧禁止で。でもそれだけでも王族に知られたらえらいことだ、絶対にそばに置いて取り込もうとするだろう」
え!?
そんなに……。
「わ、私が見ているのは主に物語や料理の本とか農作物の本なのですが」
「そうなのか」
「ええ、無害そうなものや面白そうなものを」
「ともかく夫人の権能の事は確かに人に言わない方がよろしいですね。戦争の情報などを無理やり見てこいなどという欲にまみれた権力者に囚われると、非常にやっかいな事になります」
「気をつけます……」
私はゾクリとして身を震わせた。
「今日はこれからタウンハウスに一度寄るが、領地に帰ったら公爵家内にある図書室へ案内しよう。害虫の件など、どこから知った知識と聞かれたら公爵家の図書室と答えておくんだ」
「は、はい、分かりました」
嘘にはなりますが、それが無難ですね。
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