第9話 ウーリュ男爵家の令嬢

 皇太子殿下が私に興味を示すのは呪いの気配でも察知したのでしょうか?

 珍しい研究対象だとかで?……。


 ともあれ、問いただすには皇族と関わらなければならなけなり、それは無理というか普通に怖くて嫌なので、私は一旦この疑問は頭の隅に追いやりました。



「さて、挨拶も済んだし、ひとまず皇都のタウンハウスに帰るか」

「はい、でもその前に降ろしていただけますか?」


 まだ縦抱っこのままで恥ずかしいので。

 しかし旦那様は頭を振る。


「足が痛いという理由で抜けるのに普通に歩いていたら不自然だろう」

「か、肩を貸していただくとか」

「それだと身長差で君は私にぶら下がる事になる」


 !!


「せ、せめて抱え方を変えていただけますか? その、縦抱っこは小さな子供みたいで……」

「そうか、ならばこうだな!」


 私は一旦降ろされて、またガバっと持ち上げられたました。


 ひ、姫抱っこです!

 通称お姫様抱っこと言われるやつです!

 本で見ました!


 これもとても恥ずかしいのですが、背に腹は代えられないです!

 ドレス姿でおんぶは格好悪い気がするので!


 バルコニーから出て、私は旦那様から抱きかかえられつつ、扇子で羞恥で赤くなった顔を隠しながら夜会から脱出しようとしましたが、


「あら、クリストロ小公爵様、もうお帰りですか、残念ですわ、ダンスの一曲も踊らずに」


 と、優雅な声がかけられました。

 こ、皇女殿下! このタイミングで!


「はい、妻の足の具合がよくないのでこれで失礼いたします」

「も、申し訳ありません、皇女殿下、このような姿で」


「ふふ、愛されておいでなのね、ごきげんよう」


 皇女殿下は笑っていますけど、目は笑っていません!

 怖い!


 皇女殿下に挨拶してお別れしました。

 やはり旦那様がかっこいいので一目惚れでもされたのかもしれません!


 私と旦那様とケビン様は馬車に乗り込みました。

 そして馬車の中で旦那様様に質問を。



「あの、皇女殿下は婚約者などおられないのですか?」

「他国の王から求婚されているとは聞いたが」

「王様から!」


 流石皇女様です!


「ただし次妃にとか言われてるから我が国からは色々利権とかをふっかけているようだ」

「未だ交渉中で確定ではないと?」

「そのようだ」


「そうなんですね、旦那様の事が気になるようでしたが」

「すでに私は妻帯者だから関係ないな」

「そ、そうですか」


 旦那様はあくまでクールでした。

 対応もどちらかと言えば塩でしたし。



「ところでエリアナは夜会で知り合いはできたか?」


 うっ! お友達はできてません!


「東の地方の虫害にあったという領地の令嬢に話しかけたかったのですが、妹とかが話しかけてタイミングを逃してしまいました」

「ああ、皇太子も出て来てしまったからな」

「エリアナ姉上は虫害が気になるようですね?」


 ケビン様が水を向けてくださいました。


「ええ、我が国で起きたなら、こちらにもいずれ被害が起きる可能性があるかもと。

虫の詳しい特徴などわかれば事前に多少なりとも対策をとれるかもしれませんし」


「その東の地方の家紋というのはウーリュ男爵家だろう、話がしたいなら伝書鳥を飛ばしてもいい」

「でももう夜ですよ」


 夜目が効く鳥は種類が限られるのでは?



「姉上、魔法の鳥だから夜でも飛べるんですよ」

「まぁ! それは素晴らしいですね!」


「ためしに飛ばしてみよう。どこかの家門に食料か金の支援をしてほしくて無理して夜会に来たのだろうから、多少なりともクリストロ家が支援すれば話は聞けるはず」


 そういえば新しいドレスも買えなかったようでした……。

 そんな中でも家門のために恥を忍んでパーティーに来られていたのですね。


 なんと健気な方でしょう。


 旦那様はすぐに魔法の伝書鳥を飛ばしてくださいました。

 なんと手紙を足にくくるのではなく、鳥が口頭でメッセージを伝える事ができる優れものでした。


 相手が結界内とか特殊な場所にいない限りはどこにいても分かるらしいからすごいです!


 すぐに令嬢から返事が来て、翌日の朝、彼女の泊まっている宿屋の近くのカフェで会える事になりました。


 そう、皇都のタウンハウスというのは全ての貴族がもっているわけではないようです。

 普段は領地にいて、ほぼ不在なら確かにお金に余裕のある貴族しか持ちませんね。










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