第37話 鬼太郎列車
ボックス席に1人で悠々と座った。トイレの隣だったけれど。列車が発車すると、車内アナウンスが流れた。ん?
「つぎは~はくろうまち~はくろうまち~」
違和感。あまりにやる気のなさすぎる声。駅員がこんなにやる気のない声を出すものか?録音だとしたら猶更、こんなの売り物の声じゃないだろ。
と思ったら、次にねずみ男の声で「妖怪名は~」と始まった。そうか、なるほど。さっきの声はゲゲゲの鬼太郎の声なのか。それから、次に妖怪ではない人間の売り物の声で、
「この電車は、全てのドアが開きます。」
などと始まった。全てのドア……そうか、さっき乗った電車は2カ所しか開かなかったから、今度は全てが開くというわけだな、と思っていたら最後に、
「お降りの際は、ボタンを押して扉を開けてください。」
と言う。やっぱり開かんのかい!と、1人で突っ込みを入れてしまった。あ、心の中で。
住宅街を通って、学校の横も通って、米子駅から米子空港へ向かって列車は走る。駅に着く度に鬼太郎やねずみ男、もしくは猫娘の声でアナウンスが入った。ちょっと窓の外を録画しながら、アナウンスを録音した。後で子供たちに聞かせてあげよう、などと思って。実際、鬼太郎に喜ぶような年齢はとっくに過ぎてしまっているのだが、一応アニメは知っているから。
この電車は境港行きである。途中、米子空港駅に停まる。米子駅から米子空港駅までは30分程だ。米子空港駅は終点ではないので、さっさと降りなければならない。やっぱり電車の出入口には階段があるので、スーツケースを頑張って運ばなければならない。
米子空港駅に着いた。電車を降りた。降りた後、後ろから降りた人が出入口付近でICカードをピッとやっているのが目の端に映った。あれ?それは何?今ピッとしないといけないの?いやいや、さっき安来駅で降りた時には、ホームの出口のところに機械があったし、電車内の機械は無人駅用で、空港駅にはちゃんと改札口があるでしょ、と思いながら、少し進んでみたものの、どうやらそのままエレベーターで外へ出られるようだった。つまり、改札口がないのだ。しまった。スイカをピッとやらなければ。
私は戻った。列車はまだ停まっている。身を乗り出し、入り口のところにある機械にスイカをピッやった。すると、その機械が赤く光った。その車両にはたまたま駅員さんが乗っていた。駅員さんが、
「あ、それは乗る時ので、降りる時はこちらです。」
と、車内中程にある機械を指し示した。うそ、大丈夫?まだ発車しないのか?この駅員さんは車掌さんだろうか。だったら、まだ大丈夫という事か。
しかし、重たいスーツケースを持って階段を上って、という余裕はない。ちょっと怖いけれども、スーツケースをホーム上に置いたまま、タタタっと列車に乗って機械にピッとやってきた。ああ怖かった。
それにしても、一度は何もせずに列車を降りてしまったのだ。そのまま誰にも咎められずに外に出られた。乗る時にも、カードをピッとやらずに入れた。切符の人もいるから。これでは、無銭乗車が簡単過ぎやしないか。いやいや、鳥取・島根の人は皆さん善良なのだろう。で、さっき電車の出口でピッとやった人はどうしただろう。次にどこかで電車に乗る時に困っただろうな。
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