第20話 宝物殿

 神職の方たちが時々通り過ぎる。水色の袴をつけた男性や、赤い袴をつけた女性が。上は白い着物である。

 さて、ぐるりと見終わったが、最初に宝物殿を通り過ぎてきたので、また戻る事にした。神楽殿のところで一度敷地を出たのだが、また入ることにした。この神楽殿の近くにはお店がたくさんあるようだった。この時には、またここに戻って来るつもりだったのだが、結局もう戻っては来なかったのだった。

 宝物殿に向かっていると、馬と牛の置物を発見した。置物というか、偽物というか。けっこう大きい銅像で、小屋の中に置かれているから本物のようだ。まあ、要するに実物大くらいだ。牛を見た時、これと同じものを見た事があるのを思い出した。たしか太宰府天満宮の外にあった。頭を撫でるといいとかで、みんなが撫でるから頭の上だけがツルツルになっていたっけ。この牛も、やはり頭を撫でるといい事があるのだろう。チラリとガイドブックを見ると、神馬と神牛で、神様のお使いとされ、触ると神馬は子宝・安産、神牛は勉学のご利益があるのだそうだ。ああ、だから学問の神様が祭られている太宰府天満宮には牛があったのか。そして、今牛を撫でている人はおらず、馬ばかり人気がある意味が分かった。ここにいる皆さん、全員大人の女性だったのだ。どうみても学生には見えないから、勉学にはあまり興味がないわけだ。で、写真を撮った私だが、撫でる事はしなかった。私は信心深くないので。それにコロナもあれだし。あ、私が撫でるとしたら牛の方だぞ。今は子宝を望んではいないので。

 さて、宝物殿にやってきた。境内の一角に現代的な建物がひっそりと建っている。ひっそりというのは、薄暗く、木々の陰にという感じがするからだ。入り口の自動ドアから入ると、左側に窓口があった。入場料は300円だった。一応、パーフェクトチケットで割引が利くかどうか聞いてみようと思った。パーフェクトチケットを出して、受付にいるスーツ姿の男性に見せ、

「これで割引になったりします?」

と聞いてみた。そしたら、

「関係ない。」

と言われた、思わず、

「あ、関係ない。」

と、繰り返した。ああそうですか、いいんですよ別に、という言外の余裕みたいなものを醸し出してみた。そりゃね、数十円の事だし、それほど残念なわけではない。だが、パーフェクトチケットを買って良かったと思いたいから、こうやって一応聞いてみるわけだよ。それなのに、その言い方は何だ。申し訳なさそうに言ってもらいたいのが本音だが、そうでなくとももう少し愛想よく言えないものか。せめて敬語を使うとか。

 気を取り直し、展示を見よう。なんか、ガイドブックでも見た何かの模型もあったが、それよりも展示の目玉という感じなのが、古い大きな柱だ。心御柱だとか。横からも真上からも見られるようにしてある。だが……そのすごさがイマイチ分からない。2階へ上がると、出土した勾玉(まがたま)や刀剣などが展示してあった。人形などもあって少し面白い。勾玉はいろいろな色があった。特に緑色の物がきれいだ。鉄砲もあった。

 さて、参拝はこれで終わりだ。大体全部見ただろう。後は食事とお土産だ。あれ、そういえば手を清める水がなかった。コロナだから撤去されていたのかな?

 などと思いながら出て行こうとしたら、手を清める場所が実はあったのだ。あの、でっかい白い犬がいた場所の、向かい側にあった。犬に気を取られて気づかなかった。なんか、申し訳ない。けれども、普通神社に来てそれに気づかないなんて事はない。ここはあまりにスケールが大きくて、道も広いし、視野の狭い私には目に入らない事もある。日光東照宮も広かったが、多分それ以上だな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る