第21話 美味すぎる地ビール
時刻は11時半。晴れてだいぶ気温が高い。大きな木のお陰で所々に日陰があり、風も強いのでバテる程ではない。だが、喉が渇いてきたぞ。また入ってきた道を戻った。池があったり、オブジェがあったり、本当に広くて素敵なところだ。修学旅行か社会科見学のどちらなのか、中学生らしき生徒たちがグループに分かれて歩いている。けれども、やはり今日は参拝客が少ない。参道を歩き始めると、木を傷めぬために、石の上を歩いてと書いてあった。木の根っこを踏み荒らすと、樹齢の高い木々にはダメージが大きいのだろう。それだけ、年間を通して参拝者が多いのだという事が伺われる。
入り口の鳥居のところへ戻ってきた。最後はぐっと坂を上った。鳥居のある場所が一番高い所のようだ。鳥居の手前から参道の方を見渡すと、まっすぐな道の向こうにまた、鳥居が小さく見える。鳥居の中に鳥居がある写真が撮れた。向こうに小さく見えるのが一の鳥居(宇迦橋の大鳥居)で、今目の前にあるのが二の鳥居(勢溜の大鳥居)だそうだ。二の鳥居をくぐり、横に広い階段を下りて信号待ちをすると、目の前にスタバがあった。一見スタバだとは分からないような、黒い瓦屋根の2階建て。ちゃんと「STAEBUCKS COFFEE」と書いてあるのだが、トレードマークの緑色の線は見えない。あ、入り口のところに丸く、あのマークはあった。間違いなく、あのスタバだ。
信号を渡った。ああ、暑い。のどが渇いた。お土産を買う前に、まずはビールじゃないか?
という事で、神社のすぐ前にある「ご縁横丁」の中へ入ってみた。ぐるりと回って通りへ出られるのだが、お土産屋さんが並んでいて、真空パックのしじみ、漬物などが目についた。通りへ出たところが地ビールなどを売っている屋台風のお店。周りには中学生か高校生かというグループばかりで、ビールを買う客は他にいない。でも、あらかじめガイドブックで見て、ここでビールを飲みたいと思っていた。ちょうど適した気候でラッキーだ。
カウンターのところに置いてあるメニュー表を見て、どれにしようか考えていると、若い店員の兄ちゃんがやってきた。地ビールは6種類あって、それぞれ特徴が書いてあるが、全て読み切れていない。待たれると焦る。
「今日は暑いですね。」
イケメン店員さんは、まずそう声を掛けてきた。
「そうですね。だから、まずビールかなと思って。」
私がそう言うと、店員さんはちょっと笑って、
「お参り、これからですか?」
と言うので、
「いえ、お参りは済ませました。」
となんだか慌ててそう言ってしまった。いや、流石に酒飲んでから参拝はないだろう。あ、でも酒発祥の地だから大丈夫か?いやいや、ダメでしょう。分からん。そして店員さんが、
「お決まりですか?」
と聞いてきた。
「うーん、迷ってしまって。」
私がそういうと、店員さんは、
「一番人気はこれです。試飲してみますか?」
と言う。
「はい、お願いします。」
お兄さんは、小さい試飲用のプラスティックコップに、ビールを注いでくれた。
「すいません、泡ばっかりになっちゃって。」
と言われた。確かに泡が半分以上。でも、一口飲むだけなら問題ない。ただでもらっているものだから文句も言えぬ。
「あ、美味しい!」
本当に、美味しいビールだった。柑橘系の香りがする。グレープフルーツの皮のような苦みがありつつも、苦過ぎず、爽やかこの上ない。本当は2種類くらいを試飲して、美味しい方を選びたいところだが、それをこちらからは言い出しにくい。ちょっと2番目に書いてあった赤いビールも気になったが、とにかくこれは美味しいのだから、これに決めた。
というわけで、一番人気の地ビールを注文した。お兄さんは、
「MサイズとLサイズ、どちらにしますか?」
と、サンプルのカップを指さしながら言った。
「じゃあ、Mサイズで。」
と私は言ったが、本当はそこにSサイズもあった。ガイドブックにも3サイズあると書いてあったし、実は、Sサイズで2種類のビールを飲むという事も少し考えたりもしていたのだが……。私が何も知らないと思って、Sサイズという選択肢をなくしたお兄さん。でも試飲させてくれたから許そう。そして、イケメン店員さんからビールを受け取り、通りに面したところにあるベンチに座って飲んだ。
プハー、美味い。ちょうどいい気候だ。学生が時々通る前で、私はビールを飲む。手に持ったビールの写真を撮ったりして。いやー、こんなに美味いビールが転がっているとはな。世の中美味しいビールはきっとたくさんあるのだろう。ビールは、二十歳くらいの時には苦手だった。世界のビールなど、変わったものを飲んでみたりして、徐々に好きになったのだ。ビールの味は気候にもだいぶ左右される。冬は飲もうとしても全然進まない。夏はグビグビ行ける。ただ、夏に飲むと余計に暑くなるという難点はあるのだが。
カップ半分くらいまで飲んだ時、少々後悔した事がある。この店には、牛串とビールのセットという物があった。島根牛を食べるチャンスだった。多少お高いとしても、セットにすればもちろん安くなるのだ。だがビールを買う時には、今はお肉を食べたい気分ではないと思ってしまった。何しろ暑くて喉が渇いていたから。でも、ビールを飲んでいると何か食べたくなってくる。のどがちょっとベタベタしてくるというか。これは私だけだろうか。どうせいつも、おつまみが食べたくなるのだから、最初から牛串のセットにすれば良かった。それで、今からでも牛串を買おうかと考える。だが、ベンチから店のメニュー表を見ても、セット料金しか書いていない。いくら探しても、牛串だけだといくらなのか分からなかった。まあ、おそばを食べられなくなったら困るし、と自分に言い訳をして、牛串は諦めた。ビールを飲み干し、カップをお店に戻した。外国人の男性がビールを買おうとしていて、イケメン店員さん、英語はあまり使わずに頑張っていた。
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