第16話 ホテル
徒歩で数分歩き、宿泊するホテル「松江アーバンホテル」に戻ってきた。まだスーツケースを預けただけなので、チェックインをしなければならない。
チェックインをして、スーツケースを返却してもらい、私はちょっと気になっている事を聞いてみた。
「もし、明日の夕食をここのレストランで摂りたいと思ったら、可能ですか?」
と。するとホテルの従業員は、何かファイルのようなものを開けて調べ、
「はい、空(あ)いていますので、ご予約できます。」
と言う。そうか。でも、今はまだ決めかねている。
「いつでも、言ってください。」
と言ってくれた。このホテルマンはいい感じの人だった。
自由に持っていっても良い物が、フロントの前の棚に置かれていた。まずは浴衣。部屋にも浴衣はあるらしいが、好きな柄の浴衣を持って行っていいそうだ。きれいな色柄の浴衣がたくさんある。水色系のクールなのもいいが、赤やピンクの華やかな柄もいい。うーん、年齢的にはブルーの方が良さそうだが、でもやっぱりこれが一番気に入った、と思って手に取ったのは、地がベージュで赤系の花や毬の模様が散りばめられているもの。帯はオレンジ。ちょっと年甲斐もない派手さだけれど、1人だからいいよね。誰も見ていないから。
それから、アメニティ用品なども。1人6つまでと書いてある。とりあえずトリートメントと梅昆布茶のスティックをもらってきた。カフェインレスの飲み物はこれしかなかったのだ。
エレベーターで6階へ上がった。私の部屋はエレベーターのすぐ近くだった。中に入ると、薄暗い電気の元、ベッドと簡易椅子、小さいテレビ、鏡台があった。ベッドの上には紺色系の地味な浴衣が一式畳んで置いてある。
割と大きな窓があり、薄いカーテンが閉めてあった。窓辺に行き、カーテンを開けると目の前に宍道湖が見える。もちろん、立地からそれは分かっていたのだが、6階ということもあり、なかなか壮観である。隣にある本館が邪魔をして、西の方が見えないのが残念。今、ちょうど日が沈む頃なのだが。
狭いとはいえ、1人なら充分な広さだ。鏡台の椅子とベッドがあれば他に椅子はいらないので、簡易椅子の上には荷物を置く。そして、床の上でスーツケースをバーンと開ける。うん、充分な広さだ。
まずはスマホをホテルの無料Wi-Fiに繋げた。そしてテレビをつける。最近泊まったホテルは、だいたいテレビ画面に大浴場や食堂の混雑状況が出たり、ユーチューブなどが見られたり、と言った感じだったのだが、このテレビは普通にNHKと民放局いくつかしか映らない。ちょっとがっかり。しかも、Wi-Fiが弱すぎる。スマホでネットに接続しようとすると、繋がるまでに時間がかかる。それに、時々プツンと切れる。
とにかくお風呂に行こう。荷物を少し整理して、ある程度お腹も落ち着いたので、大浴場の温泉へ行くことにした。宍道湖温泉だ。
大浴場の女湯の扉には、鍵がかかっていた。それを、チェックインの時に渡された暗証番号を押して開錠する。こういう所(セキュリティ)は進んでいるのだな。お風呂場は空(す)いていた。平日に来るとこれがいい。夏休みなど、洗い場に裸で並ぶ事もあるからな。しかし、顔を洗おうと思ったらボディーソープしかない。そうか、アメニティグッズから、洗顔フォームをもらってくるべきだったのか。仕方がないのでボディーソープで顔も洗った。そういや体を洗うスポンジもあったな。明日はあれをもらおう。
私はあまり長くお湯に浸かっていられない質だが、ぬるめの湯だったので努めて長く浸かってみた。でも、やっぱりあまり長湯ができない。一度上半身を出して座ってから、もう一度肩まで浸かるが、やっぱりなんだか息苦しくなって数分と持たなかった。プールもあまり得意ではないが、つまりこういう事なのだな。
お風呂から出て、例の浴衣を着て部屋へ戻った。実は口の中を火傷していた。たぶんアンコウのから揚げのせいだ。だから、アイスでも食べようかと思ったが、買いに行くには靴に履き替えねばならず、今更靴下を履くのは嫌だったので辞めた。
部屋に戻ると20時過ぎだった。髪を乾かすなどしてから、日記を書いた。だいぶ長くかかった。何しろ今日はいろいろあったからね。1時間くらいかかったか。そして、SNS投稿をしようとした。Wi-Fiに繋げるのに時間がかかり、やっと繋がったと思ったが、写真を選び、文字を書き込み、いざ投稿ボタンを押そうとしたら、Wi-Fiが切れているではないか。危ないところだった。思わずパケットを大量に使ってしまうところだった。それで、もう一度Wi-Fiに繋げようと試み、繋がった瞬間に投稿する。また別の投稿を書いているうちに切れてしまい、また繋げて……と3つの投稿をやっとの思いで成し遂げた。
さて、いつもなら寝る前に酒だ。だが、今日は水曜日。私はいつも金・土・日には酒を飲むが、それ以外は飲まない。まあ、今日は夕飯時に飲んだけれど、酔ってはいないから、今から飲むのがいつもの流れなのだが……考えてみたらそれは夫と一緒の時の習慣で、まあ、付き合いだったというか。だから、今1人なのに無理に飲む事はないのだ。寝酒はせずともよい。疲れたから眠れるだろう。若い時には旅先で眠れない事が多かったけれど、最近は酒のお陰で眠れない事はなかった。早く目が覚めたりしてしまうのだが。さて、寝酒をせずに眠れるだろうか。
やるべき事はやってしまい、眠くなるまで推しの動画でも観ようと思った。23時頃になったらWi-Fiも切れなくなった。やはり混雑のせいだったのか。やれやれ。今の時代、普通のテレビしかないのなら、Wi-Fiがなかったらたまらんよ。
0時頃には就寝。健全だ。なんだか女子大生の一人暮らしのようではないか?私は一人暮らしをしたことがない。一人暮らしってこんな感じなんだろうな、とそんな風に感じた一人旅の2回目である。ちなみに、1回目は何の疑問も抱かず、1人で寝酒をかっ喰らって寝て、翌日の頭痛を引き起こしたのであった。夏だったから、ついビールなんぞを飲みたくなったのも無理はないのだが。
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