第5話 スタバ

 保安検査で渡された黄色い紙を見ると、搭乗口は67Aと書いてある。近くにあった地図を見た。すると、ここから右(南)方向へ、端の方まで行った所だった。まあ、言ってみれば右の突き当りだ。今いるCゲートも、比較的右寄りだ。さて、スタバはどこだろう。いや、昨日家で調べたから何となく嫌な予感がしている。確か、反対側の……。

 地図でスタバを探した。やっぱりそうだ。左(北)方向の端っこだ。早く来て良かった。1時間あれば大丈夫だろう。

 という事で、左方向へ歩き出した。飛行機が窓の向こうに見える。最初は余裕で写真を撮ったりしていた。動く歩道をいくつも越え、人がたくさん往来するゲートをいくつも越え、どんどん歩く。徐々に人の数がまばらになってゆく。途中、細い通路を通って、更に歩いた。もう、この辺りになるとほとんど人がいなくなってくる。

 いくつもの飲食店を通り過ぎた。お土産屋も通り過ぎた。まだなのか。なんだか、既に足が疲れてきたぞ。こんなところで、初っぱなから疲れて大丈夫なのか。だが、今更後戻りはできない。

 そろそろスタバが出てきても良さそうな頃だ。売店があると凝視して、スタバのマークを探す。ここでもない。こっちでもない。あれ?本当の端っこまで来てしまった。おやおや、なかったぞ。

 そんなはずはない。もう一度戻る。そして、壁面に貼ってある地図を見に行く。そうだよ、やっぱり通ってきたはずだ。なぜに見逃したのだ。そして、地図通りに行ってみると、さっき怪しいと思って凝視した店舗の1つがスタバだった。柱の陰にマークが隠れていたのだ。

 他にはほとんど人がいないというのに、さすがスタバ。4~5人の行列ができていた。なので、その後ろに並んだ。列の前の方を見ると、あると思っていた食べ物の棚がない。向こうの方にはありそうだ。うーん、確か棚から自分で取って、ドリンクの注文の時に差し出して、

「これもください。」

と言って一緒に料金を払う感じではなかったか。

 食べ物はどうするか、その事を考えながら列に並んでいると、若い女性の店員さんが、おずおずと私に話しかけてきた。

「お客様、まだご注文がお済みではないですよね?」

うわぉ。これは注文の列ではないのか。

「あ、はい。すみません。慣れていなくて。」

照れ笑い。そして、促されて90度曲がった先のカウンターへ。ちゃんと食べ物の棚もあった。ここにも列ができていれば、多分間違える事はなかったのに。で、食べ物をどうするか迷っていると、2~3人の客が来て、私よりも先に注文している。この人達がもうちょっと早く来ていてくれたら良かったのに。

 朝から何も食べていないのに、あまりガッツリ食べる気になれなかった。サンドイッチがいいかなーと昨日の時点では考えていたのだが、今はもう少し小さいものでいい気がする。朝食だし、甘い物でもいいか。スコーンとかドーナツとか。棚の中を見ていると、チョコレートチャンクスコーンというのが美味しそうに見えた。他にもいくつか目についたが、スコーンならばちょうどフードチケットと同じ300円だ。追加料金なしで買える。そう思って、チョコレートのスコーンに決めた。

 そして、重要なのがコーヒーだ。ドリンクのチケットは700円分だったが、甘くて大きいサイズのコーヒーは要らない。で、ドリップコーヒーをデカフェでという注文にしようと思っていたのだが、単語がすぐ出てこない。メニューを形ばかり見上げるものの、どこに何が書いてあるのやら……これだからスタバは難しいのよ。

「ホットコーヒー……を。」

自信なさげにそう言うと、店員さんがちゃんと承ってくれたようなので、安心する。それを、デカフェでと言ってメニューの「デカフェ¥50」を指した。そして、

「チケットを使いたいんですけど。」

と言ってスマホ画面を見せると、サイズを聞かれた。

「トールサイズで。」

と言ったら、かぶせるように、

「ドリンクのチケットはおつりが出ませんが、今回のご注文でよろしいですか?」

と言われた。私もかぶせるように、

「大丈夫です。」

と答えた。大きくてクリームもりもりな飲み物など、今だけでなく未来永劫要らないのだ。というか、チケットの有効期限が6月なので、それまでに700円もする甘い飲み物は飲まないと断言できる。甘くない飲み物で、お酒でもなければ700円もするわけがないのだ。値段とカロリーは比例する。カロリーの高い飲食物ほどお値段も高いのが世の常。たまに低カロリーなのにお高い物もあるにはあるが、それはヘルシーにする為に余計な手間のかかっているやつだ。

 店員さんは怪訝な顔を一瞬したものの、ちゃんと受け入れてくれた。ドリップコーヒーのトールサイズは355円。デカフェでプラス50円。まあ、普通700円のチケットで405円のドリンクを買う人はいないわな。スタバによく通う人であるならば。

「デカフェには10分程度お時間をいただきます。」

と言われ、

「スコーンは温めますか?」

と聞かれた。温めるとチョコが手に付くか?と思った私は、

「そのままでいいです。」

と答えた。そして、紙袋に入れたスコーンとレシートを渡され、レシートに丸印が書いてあって、

「この番号でお呼びします。」

と言われた。私はそれらを受け取り、スタバの前にある椅子、と言ってもけっこう離れている場所へ腰かけた。

 スマホで新聞を読む。今朝、新聞のデータをダウンロードしておいた。時刻は8時半。ここで10分待つとなると、意外に時間に余裕がない。

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