素直になれたなら

寅次郎

第1話



渋谷午前1時20分。健二は田園都市線の閉まった入り口付近にしゃがんでいた。


スクランブル交差点から一人の女が猛ダッシュしてくる、


女は終電が終わってることに今気づいたようだ。


もの凄く息が荒れている。健二は声をかけた。




「大丈夫ですか?」




すると女は




「なんで電車ないのよ!」




「さすがに無理ありますよ。この時間ですもん」




と健二は言った。




「水ちょうだい」




健二は数時間前に買った水を「良かったら」と渡そうとした時




「冷えてるの!」と女に言われ、ワガママな女だなと思いながらも自販機で水を買った。




女に渡すと「ありがとう」と言い、凄い勢いで水を飲んだ。




「お兄さんタバコある?」




健二はマルボロを一本渡して火を点けてあげた。










健二は率直な気持ちを言った。




「タバコとか吸わないタイプかと…」




「うん、これが初めて」




「えっ!そのタバコが初めて?」




「そう、ロストバージン」






小さく笑った。






「お兄さんいくつで、何してて、どんな女が好きな人?」




女はテンポ良く言った。






「俺は26で、不動産屋で働いてて、よく笑う人が好きです」








「26なんだ、あたし25」






「俺、小坂健二って言います」






「私は倖田美恵。よろしく」






自己紹介を終わった頃にはタバコの火は消えていた。






美恵は家に帰るより漫画喫茶の方が安いと言った。




健二は変な意味じゃなくラブホテルどうですか?と言ってみた。






「そうやっていつも口説いてるの?」






「違いますよ!ただ…」






「いいけどなんかしたら殺すよ」






なにもしない事を約束してホテルに行くことになった。












ホテルに入ると思ったより広かった。


カラオケまで付いている。


ホテルに入る前にコンビニで酒やらつまみやらを買っておいた。


2人で改めて乾杯をした。


今日渋谷で何してたか?の話になり、健二は友達と飲んでて終電逃したことを伝えた。


美恵は彼氏にフラれたばかりで、女友達と飲んでいたとの事だった。


僕たちはよくしゃべり、そして少し寝た。












翌朝目覚めるとチェックアウトの時間だった。


僕たちはラブホテル街を歩いていた。朝陽がやけにまぶしかった。


美恵は健二に言った「もう会えないのかね?」


「じゃあ連絡先交換しとく?」


「うん」と美恵は笑った。


そして渋谷駅。




「じゃあ」と健二。「また」と美恵。




ふたりは別れた。






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