第7話ー⑤「親切」
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その日の放課後、今日は待っててと暁からの連絡があったので、近くのコンビニで待機することになった。
「お待たせ!ごめんね、色々立て込んじゃって」
教室に現れた暁は、いつも通りの元気そうな彼女に見えた。
「いいんだけど・・・。話って、なに?」
「息抜き」
「息抜き?」
「何か買おうか?」
暁はスマホを取り出した。
「いいよ、別にいらない」
「いいからさ」
強引な彼女に、私は仕方なく押し切られた。 先ほどまで、冷淡だった私は、彼女にプリンをごちそうして貰うことにした。
コンビニを出て、私と暁はお互いの自転車を押して帰ることにした。
「買い食いする?」
「絶対イヤ」
「いうと思った」
暁のいつも通り過ぎる態度に、私の調子は狂ってしまうばかりだ。 本当にどうしたもんかと頭を抱えていた。
「ねぇ」
「茜から聴いた。夏祭りの件で怒ってるんでしょ?」
「怒ってるわけじゃ・・・」
どうしよう。夏祭り以降、直接会うのが久々過ぎて、距離感をリセットしてしまった気がしたからなのに。
「まぁ、いいや。聴く?あの時、何があったか?」
8月の終わりが近づいているとはいえ、夜でも蒸し暑いこの時間。
夏の暑さで、どうにかなってしまいそうな私はすぐに言い出すことが出来なかった。
「やっぱ、いいか。その時じゃないよね」
「いや・・・。うん、やっぱり、今じゃない気がする。今は聞かないでおく」
「そうだね」
何処か、曇っていく暁の表情を後目に暑さに侵された私はずっと、聴きたかったことを聴いてしまった。
「全国残念だったね」
「もしかして、気遣ってたの?」
照れる私に暁はいつも通りに見えてた。
うんと頷く私に彼女はあはははと照れくさそうに笑っていた。
「いいよいいよ。終わったことだし、まだまだこれからだし」
「そうかもしれないけど」
「それより、今の方が辛いなぁって」
下を向いて、話し続ける暁に私は見つめることしか出来なかった。
「部長なんだけどさ。全国はレベルが高いし、他の部員の面倒とか、ОGはうるさいし」
「大変なんだね」
「大変だよ~。今日はバックレて来たし」
「はっ?」
「冗談だよ、冗談。今日は短い練習だっただけ。オフもあるけど、勉強もしてるし」 暁から出て来た冗談みたいな言葉に私の思考は固まった。
「冗談でしょ?」
「本当だよ。石倉先生に、取り続けろって言われてさ」
「そうなんだ・・・」
彼女の成長ぶりに、私は自分の不甲斐なさを痛感するばかりだった。
暁は変わろうとしている。部長として、一人の陸上選手として、そして、学生としても。
「暁は凄いね」
「ん?何が?」
「そんなに頑張れて、私なんて」
「そう思わせてくれたのは、妃夜のお陰だよ」
彼女は自転車を止め、私に目を合わせた。
「妃夜はいつも頑張っているからだよ」
「私は頑張ってはいない。いつも、誰かに守られてばかり、暁みたいにはなれない」
「何言ってんだよ。自分は頑張ることしか出来ないって、言ってたの何処のだれ?」 それは一学期の自身が発した言葉だった。
「あの時はあの時、今は今。人は変わるわ」
言い訳にしては、とても浅く、どうにも歯切れが悪く思えた。
「めんどくせぇ」
「うっざ」
「やっと、調子上がって来たんじゃない?やったやった」
「何よ、それ」
「もっと、自分を好きになりなよ」
「あなた、本当に暁?気色悪いんだけど」
「気色悪いって言われるの心外なんだけど・・・」
落ち込む彼女を後目に私たちは、何気ない話で時間が過ぎていく。
本当は誰かとこうやって、話がしたかっただけなんだ。
「やっぱり、妃夜と二人三脚したかったなぁ」
「嫌よ、いくら運動しているとはいえ、あんたと一緒に歩くなんて、絶対イヤ」
「そういうなよぉ~。練習しようぜ」
「お断り致します。あんな密着した状態で歩くなんて、絶対イヤ」
「そんなぁ~」
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