第2話ー② 「どうにかなるさ」
2
翌日の朝
私は椅子に座り、死んだ魚の目をして、机の上で突っ伏していた。
「どしたん、ひよっち?昨日より、体調悪そうじゃない?」
加納さんはいつものように、私の前に現れた。
「別に・・・。もう、人間関係に疲れて・・・。期末テスト、早く終わって欲しくて・・・」
「えっ、二年生随一の頭脳の持ち主がどしたん?」
「昨日、晴那のご指導をしていたんですって」
いることが当たり前のように、矢車さんが会話に割り込んで来た。
「矢車さんの気持ちが痛いほど、分かったわ。あの女に指導するのは、心が折れると言うか」
「分かりますわ、晴那は陸上と家事全般以外は何も出来ないポンコツダメダメ女ですからね」
「せなっち、家事は出来るんだ」
「まぁ、ご両親がお忙しい方々ですから、彼女が率先してやってるだけですわ」
そういえば、彼女が作ってくれた炒飯はとても美味しかった。
それで、私の気は済むわけではないが。
「それで、如何ですの?晴那は何とかなりますの?」
「分かんない。今はこれまで所を書き写させてるけど、それを丸暗記させて、どれだけやれるかによりそう」
「本当に陸上に対するやる気を勉強に分けられたらいいのに」
「そういう人いるよね、けど、そういうのって、好きなことじゃないと出来ないよね」
「どうでもいいんだけど、矢車さん。何で、私と普通に会話してるの?」
私は気軽に話しかけて来るお嬢様口調の彼女にありのままの言葉を伝える為に、一度顔を上げた。
「はい?」
自然な流れで会話に参加する矢車さんの姿は私は少しばかりの疑念が湧いて来た。
「私が怖くないの?何で、優しくしてくれるの?」
その言葉に彼女は何処か、自信満々に腕を組み、私に訴えかけて来た。
「決まってるでしょ?晴那の友達は私の友達ですわ。それに貴女は私の憧れですもの」
「それって・・・」
「あっ、一応、私もひよっちの友達だからね。ひよっちって、言葉が無いと友達って、認識出来ないタイプ?」
「加納さん・・・」
「もしも、晴那の指導に困ったら、仰って下さいな。私もお手伝い致しますわ」
ただの同級生と思っていたのは、私だけらしい。優しい彼女達の言葉に私はとても面はゆく、何とも居た堪れない気持ちで机から離れられなかった。
「GoodMorning!天!」
「……」
「おはよう、茜」
モブ女は無視して、机に向かって行った。
「お気になさらないで下さいね、羽月さん。茜は根が悪くないから。ただ、彼女」
「おはよー、みんな!」
割って入って来る暁の様子はあんなことがあったのに、いつもと変わらず、元気だ。少しはビクついてもいいのに。
「羽月先生、ノートです。国語は書き取り終わったから。今日は数学貸してね」
「・・・・・・・」
昨日はあんなキツイ言葉を言い放ったこと、友達と認めてくれる2人やモブ女のことで、私は再び、顔を下げ、寝たふりを決め込んだ。
「照れてるんですわ、ノートは頭の上にでも載せておけばいいですわ」
「本当にせなっちって、隅に置けないね」
「いや、何処にも置く場所ないけど」
「晴那、少し黙ってなさい」
3
私には疑問があった。暁の涙を自然に拭いていたことだ。
私にとって、人の体温は不快の象徴であるはずなのに、どうして、あの時は気分が悪くならなかったのか?
一度はちゃんと考えようとしたが、それを記憶は許してくれなかった。
もしかして、私は彼女を求めているのか?
私は私が分からない。私は一体、どうしてこうなってしまったのか。
「羽月?羽月?ひよっち?ひよさん?ひー」
「やめろ、その呼び方。私はあんたを許したわけじゃないんだから」
「えぇ・・・」
放課後、私は図書室で暁と勉強していた。
彼女が数学のノートを書き写しながら、私は自身に起きたことを考えていた。
その前にどうやら、彼女はノートを書き終えたようだ。
「今思ったんだけど、これノート書き写しても、意味なくない?」
「あんたはそれ以前の問題なの。数式覚えてからじゃないと意味ないの」
「そーかもだけどぉー」
「とにかく、次は社会。地理は覚えるだけだから」
「へーい」
暁はちゃんとノートを書いてくれているようだ。私のノートを忠実に書き写してくれているようだ。 これからも、ちゃんと書いて貰えると嬉しいのだが。
「羽月のノートって、分かり易いね。ちゃんとまとまってて。先生よりまとめるの上手いんじゃない?」
「褒めても、あんたの点も私の評価も上がらないわよ」
「そういうつもりじゃなくて、本心なのに」
「あんたは字はまだ読める方なんだから、寝ないで授業受けなさいよ」
「あははは、精進します」
素直な言葉を受け止めなかったのは、裏を返せば、私は命令順守の人間なのかということだ。勉強して、怒られたくないだけの臆病者だからだ。
ノートだって、上手くまとめられるように、色んな本やサイトで調べたり、やり方を真似してるだけだから。
「聞くの忘れてたんだけど、あんたはどれ位の点数を目指してるの?」
「ん?分からん。まぁ、30点代からは脱したいかな?」
「理想が低すぎる。けど、今はそれでもいい。人間は目標が無いとダメだからね」 こいつにはこれ位の目標がいいのかもしれない。
「分かる分かる。あたしもいつだって、一位目指してるからね」
全くと言っていい程、話がかみ合ってる気がしないが、今はそれよりも、暁の為になる為に私は持てる力全てを使ってでも、彼女に勉強を教えようとその日のテスト勉強は完全下校時刻まで続いた。
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