第1話ー④ 「みんな」
今日は私の図書委員の当番日なので、久しぶりに図書室に訪れた。 一応、テスト期間とはいえ、勉強する生徒もいた。短い時間だが、職務を全うせねばと思い、席に着き、返却された本の整理に勤しんだ。
図書室では、多数の生徒が次の期末テストの為に勉強する者もいれば、スマホをかまっている者、寝ている者もいた。皆それぞれの時間をこの部屋で過ごしていた。
私は本を所定の位置に返す為に、移動を始めた。
その最中、私への視線は相変わらず、痛々しい物であった。 無理もない。今の私は髪を引っ張られ、気絶。よく分からんけど、気絶し。更に学校一の人気者に目を付けられたという全校生徒へのヘイトは私に集中していて、当然に帰結である。
その上、昔のあの一件も噂になっていた。
私への疑いの目は日に日に強くなっている気がした。
だから、一人でいる方がいいんだ。誰も傷つかないから。 一人にいることに慣れ過ぎて、一人を謳歌していた私にとって、暁晴那との関係に対する波紋はどんどん、大きくなっている気がした。
本を戻した後のこと、私は図書委員の座る席に戻り、仕事をしようとした時のことだった。
「あ、あの。羽月さん?」
「はい?」
私の目の前に現れた女子に見覚えはない。その代わり、声には聴き覚えがあった。 私の陰口を言っていた女子だろう。そのうちの一人と思われる。 無意識に私は舌を軽く噛んでいた。
「あの時はごめんなさい。アタシ、羽月さんが気絶するなんて、知らなくて、そのみんなが言ってたから、その、依がごめんなさい」
私の心は黒く渦巻いていた。
この人の自己満足の為に私の大切な時間を費やし、心を溶かしていくのか。 この人はここで謝罪すれば、気が晴れるのだろうが、私の感情は、どうなる?私の気持ちは?出来ることなら、二度と関わりたくなかった。
どうして、関わろうとするのか?無神経なのか?良心の呵責なのか?
私は言葉に詰まった。下を向き、迫り来る嵐が過ぎ去る時を待った。
私のことを見透かしたように、彼女は現れた。
「謝らなくていいよ。本当に謝るなら、もう二度と羽月に近づくな。若宮のしたことは、そういうことなんだよ。若宮は良くても、羽月の心は戻らないんだよ」
その言葉を聞いた彼女は泣き崩れ、脚を地面につけた。 私は言葉に詰まった自分を恥じた。 彼女も、彼女の思いがあったのだろう。私は私だけで、世界が完結していて、彼女の思いを無碍にするところだったのだ。
私も変わらなきゃいけない。変わらなきゃ。
そうじゃなきゃ、誰も救えない、救えないんだ。
「ありがとう、暁。でも、いいの、もういいの。もう、謝らなくていいんだよ、だから、泣かないで。今度は負けないで、自分にも、みんなにも」
その言葉は、己自身の戒めも込めていた。自分も負けない為にに、みんなに立ち向かう為に、私に勇気をくれた彼女の為に。
「羽月さん、うん!」
「あなたたち?」
その後、私と暁は司書の先生に滅茶苦茶、叱られた。 な ん で ?
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