あんたとシャニムニ踊りたい プロローグ

@aonocallisto

プロローグ‐①


「私はあなたと友達になりたい。あなたの顔を私は知らないけど、いつか、あなたと踊りたい。今は元気が無くても、いつか、元気になったら、あたしと踊ろう。そしたら、きっと、こんな世界も悪くないと思えるから」


 中学一年の夏、トイレで独り苦しむ私にそう言ってくれた人がいた。

 こんな汚れた私でも、愛してくれる人はいるのだろうか?

 最初は腹も立ったし、むかついたけれど、こんな私でも救われて良いんだとそう思えた気がした。


1年後 6月某日 〇〇中学校 二年一組教室内。

 朝の風景は、何処か、賑やかで騒々しく、騒がしい。

 集団行動を取る上で、これが大事ということは、分かっているつもりだ。

 教室の机で、意味も無く、参考書を開き、自分は無関係を装いながらも、意味もなく、教室を見つめていた。

 陽キャの女どもは、校内だというのに、厚化粧。中学生で、化粧なんて、百年早いんだよと気持ちは朝だと言うのに沈んでいった。

 それを馬鹿みたいに笑う女子や、別クラスの女子も、何とも、やかましい。


 予鈴がなり始め、誰もが、急いで、席に座ったりと何とも、賑やかだ。


 「ごめーん、遅れた」


 「晴那、遅い」


 「ごめんごめん、自主練してたら、乗っちゃってさぁ。」


 「I couldn’t care less.」

 (そんなのどうでもいいわ)


 「ん、何て?」


 「どうでもいいんですって」


 「そんな悲しいこと言うなよぉ~」


 「you're really annoying.」

 (本当にあなたは面倒だわ)


 こうやって、繰り返される他愛ない会話。どうでもよく過ぎていく朝の風景。

 中学二年羽月妃夜にとって、それは聞き飽きた日常の一ページであった。


 話をする人はいるが、授業以外、それが煩わしいとか、寂しいと思うこともあるが、私は別にそれでいい。そうすれば、傷つくことは無いのだから。


 「おはよー、羽月さん、佐野っち」

 まただ、また、この女は私に挨拶をしてくる。何様のつもりなんだ、こいつは?と思い、私はとりあえず、挨拶を交わした。


 「お、おはよう」

 何で、こいつは皆に挨拶をするんだ?こんな人相も性格も、色々歪み過ぎている私に対しても。


 それ以上に向けられてくる笑顔に、私は耐えられなかった。

 私は所謂、陰キャで、地味で、性格も悪い私なんかの為に、クラスの人気者が挨拶をする理由が、皆目見当もつかなかった。

 暁晴那はそういう人間だ。誰にでも、明るく接するようなそんな人だ。

 しかし、私の日常は、挨拶以上の会話も無ければ、それ以下も無い。

 授業を真面目に聴いて、ノートにまとめ、寝ることも無く、絵に描いたような勤勉で優等生を演じ、学生としての本文を全うするだけの平凡な人間。

 人生、波風を立てることなく、平穏に生きたい。挫折も失敗も犯したくない、何故なら、私は・・・・。


1


「羽月さん、プリントを集めておいて、職員室まで、運んでくれ。」

 四時限目の終わり、初老過ぎの社会の男性教師から、頼まれた役目を果たす為、私は委員長ではない。その仕事は加納さんの役目なのに、先生からの信頼の厚い私は、仕方なく、その役目を全うしようとした。


 「先生、それ、私も手伝います。羽月さん、一人にやらせるのは、ちょっと。」

 暁晴那は、何のためらいも無い言葉に、私の心は泡立った。


 「それもそうだが、お前はもう少しだな。」


 「わ、私一人で頑張れます。暁さんにも、迷惑だし。」


 クラスメイトは全員で、28名。いつものことだし、私はどうしても、これを一人でやりたかった。

 評価を上げたいとか、そういうことではなく・・・。


 「迷惑なんて、そんな・・・。」

 「とりあえず、頼むぞ。」


 社会の教師は、教室を後にした。

 私は教壇に立ち、集まって来るプリントを回収した。

 暁晴那の手は借りたくない。どうしても、どうしても。


 「プリント、集めます。宜しくお願いします。」

 皆、ぞろぞろと提出が終わった人から、どんどんと近づいていき、プリントを机の上に置いて行った。

  

 「ごめんね、ひよっち。私の仕事なのにさ、いつも悪いね。」 

 クラスの委員長で、まとめ役の加納さんは、誰にでも気軽に接してきては、こんな私を気遣ってくれる人だ。


 「いいよ、いつものことだし。」


 そう、いつものこと。人と関わる物じゃなければ、なんてことはない。そう、なんてことはない。

 すると暁さんは、私の下に駆け寄るように、プリントを置いた。


 「たまには、誰かに頼っても、いいんだよ。」


 こいつの言葉に、私は何だか、憤りを覚えた。すぐに、誤魔化すように、軽く舌を噛んだ。

 何様のつもりなんだ、おめぇの戯言に付き合ってる場合じゃねぇんだよ、ボケが。


 「ありがとう。」

 心にもない言葉を私は言って、誤魔化した。

 何で、こんなに苛々しているのか、自分でも理解出来なかった。


 暁さんは、他のクラスメイトと下に戻り、弁当を持って、教室を後にしていった。

 私は病欠の間宮さんを除く、全てのプリントを集め、職員室に向かい、恙なく、やり遂げた。

 その帰り、すぐに戻って、ご飯を食べようと教室に戻ろうとした時のこと。


 私の眼前に校内随一の不良2人が現れた。

 今時、不良なんて、流行らないし、カッコ悪くないのだろうか?どうして、ワルになりたがるのか、よく分からない。


 「おやぁ~。これはこれは、秀才様じゃありませんかぁ」

 天然パーマの不良は、意味も無く、私に絡んで来た。

 私は面倒だったので、相手をせず、そのまま、その場を後にしようとした時だった。


 もう一人の大柄な不良は私の脚を引っかけ、あれよあれよという間に、廊下に倒れ込んだ。


 「はっはぁ~、だっさ。秀才様も木から落ちるってか。1枚いいっすか?いいっすよね?ピースピース、いぇーい」


 スマホを取り出し、連写の不快な音を弾ませながら、撮られる音を聴く時間は、何とも苦痛だった。何とか耐えようと舌を噛み、我慢した。


 「ねぇーねぇー、秀才様さぁ、お金貸してよ。この無様な写真を晒されたくなかったら、10,000貸してよ。ねぇーねぇー。」

 何で、そうなるのだろう?勝手に晒せばいいのに。そういうのダサいのが、分からない残念なオンナだ。


 「勝手にすれば。」


 「なっ・・・。」


 天パ不良は絶句した。

 先ほどまでの強気の彼女とは思えない苦悶の表情を浮かべていた。

 よほど、こういうことに慣れてないんだなと残念さに拍車がかかった。

 私の長い髪の毛を天パ不良は、引きちぎる勢いで、掴み取った。


 「うるせぇんだよ、何、粋がってんだよ、このアマ。頭だけのてめぇにアタシの乙女心が分かんのか、ボケカスメガネェ。」

 強烈な痛み以上に、私の頭は真っ白になった。私の苦手なこと一つ。家族以外の人間に触られることだ。

 男性であれ、女性であれ、触られるのは、とても不愉快極まりないのだ。

 

 頭が真っ白になりそうな自分を抑えながら、私は誰かが助けてくれることを祈った。


 すぐさま、私のクラスの担任が駆け付けた。


 「何やってんだ、お前等~。」

 「今日の所は、これでいいわ。いくぞ、×。」

 「うっす」


 私は失神してしまい、その時の記憶が無い。

 いつからだったかは、分からない。どうして、触られるのが、苦手なのかもわからない。

 理由があれば、良かったのに。



 

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