あんたとシャニムニ踊りたい 第7話
蒼のカリスト
プロローグ‐①
「私はあなたと友達になりたい。あなたの顔を私は知らないけど、いつか、あなたと踊りたい。今は元気が無くても、いつか、元気になったら、あたしと踊ろう。そしたら、きっと、こんな世界も悪くないと思えるから」
中学一年の夏、トイレで独り苦しむ私にそう言ってくれた人がいた。
こんな汚れた私でも、愛してくれる人はいるのだろうか?
最初は腹も立ったし、むかついたけれど、こんな私でも救われて良いんだとそう思えた気がした。
1年後 6月某日 〇〇中学校 二年一組教室内。
朝の風景は、何処か、賑やかで騒々しく、騒がしい。
集団行動を取る上で、これが大事ということは、分かっているつもりだ。
教室の机で、意味も無く、参考書を開き、自分は無関係を装いながらも、意味もなく、教室を見つめていた。
陽キャの女どもは、校内だというのに、厚化粧。中学生で、化粧なんて、百年早いんだよと気持ちは朝だと言うのに沈んでいった。
それを馬鹿みたいに笑う女子や、別クラスの女子も、何とも、やかましい。
予鈴がなり始め、誰もが、急いで、席に座ったりと何とも、賑やかだ。
「ごめーん、遅れた」
「晴那、遅い」
「ごめんごめん、自主練してたら、乗っちゃってさぁ。」
「I couldn’t care less.」
(そんなのどうでもいいわ)
「ん、何て?」
「どうでもいいんですって」
「そんな悲しいこと言うなよぉ~」
「you're really annoying.」
(本当にあなたは面倒だわ)
こうやって、繰り返される他愛ない会話。どうでもよく過ぎていく朝の風景。
中学二年羽月妃夜にとって、それは聞き飽きた日常の一ページであった。
話をする人はいるが、授業以外、それが煩わしいとか、寂しいと思うこともあるが、私は別にそれでいい。そうすれば、傷つくことは無いのだから。
「おはよー、羽月さん、佐野っち」
まただ、また、この女は私に挨拶をしてくる。何様のつもりなんだ、こいつは?と思い、私はとりあえず、挨拶を交わした。
「お、おはよう」
何で、こいつは皆に挨拶をするんだ?こんな人相も性格も、色々歪み過ぎている私に対しても。
それ以上に向けられてくる笑顔に、私は耐えられなかった。
私は所謂、陰キャで、地味で、性格も悪い私なんかの為に、クラスの人気者が挨拶をする理由が、皆目見当もつかなかった。
暁晴那はそういう人間だ。誰にでも、明るく接するようなそんな人だ。
しかし、私の日常は、挨拶以上の会話も無ければ、それ以下も無い。
授業を真面目に聴いて、ノートにまとめ、寝ることも無く、絵に描いたような勤勉で優等生を演じ、学生としての本文を全うするだけの平凡な人間。
人生、波風を立てることなく、平穏に生きたい。挫折も失敗も犯したくない、何故なら、私は・・・・。
1
「羽月さん、プリントを集めておいて、職員室まで、運んでくれ。」
四時限目の終わり、初老過ぎの社会の男性教師から、頼まれた役目を果たす為、私は委員長ではない。その仕事は加納さんの役目なのに、先生からの信頼の厚い私は、仕方なく、その役目を全うしようとした。
「先生、それ、私も手伝います。羽月さん、一人にやらせるのは、ちょっと。」
暁晴那は、何のためらいも無い言葉に、私の心は泡立った。
「それもそうだが、お前はもう少しだな。」
「わ、私一人で頑張れます。暁さんにも、迷惑だし。」
クラスメイトは全員で、28名。いつものことだし、私はどうしても、これを一人でやりたかった。
評価を上げたいとか、そういうことではなく・・・。
「迷惑なんて、そんな・・・。」
「とりあえず、頼むぞ。」
社会の教師は、教室を後にした。
私は教壇に立ち、集まって来るプリントを回収した。
暁晴那の手は借りたくない。どうしても、どうしても。
「プリント、集めます。宜しくお願いします。」
皆、ぞろぞろと提出が終わった人から、どんどんと近づいていき、プリントを机の上に置いて行った。
「ごめんね、ひよっち。私の仕事なのにさ、いつも悪いね。」
クラスの委員長で、まとめ役の加納さんは、誰にでも気軽に接してきては、こんな私を気遣ってくれる人だ。
「いいよ、いつものことだし。」
そう、いつものこと。人と関わる物じゃなければ、なんてことはない。そう、なんてことはない。
すると暁さんは、私の下に駆け寄るように、プリントを置いた。
「たまには、誰かに頼っても、いいんだよ。」
こいつの言葉に、私は何だか、憤りを覚えた。すぐに、誤魔化すように、軽く舌を噛んだ。
何様のつもりなんだ、おめぇの戯言に付き合ってる場合じゃねぇんだよ、ボケが。
「ありがとう。」
心にもない言葉を私は言って、誤魔化した。
何で、こんなに苛々しているのか、自分でも理解出来なかった。
暁さんは、他のクラスメイトと下に戻り、弁当を持って、教室を後にしていった。
私は病欠の間宮さんを除く、全てのプリントを集め、職員室に向かい、恙なく、やり遂げた。
その帰り、すぐに戻って、ご飯を食べようと教室に戻ろうとした時のこと。
私の眼前に校内随一の不良2人が現れた。
今時、不良なんて、流行らないし、カッコ悪くないのだろうか?どうして、ワルになりたがるのか、よく分からない。
「おやぁ~。これはこれは、秀才様じゃありませんかぁ」
天然パーマの不良は、意味も無く、私に絡んで来た。
私は面倒だったので、相手をせず、そのまま、その場を後にしようとした時だった。
もう一人の大柄な不良は私の脚を引っかけ、あれよあれよという間に、廊下に倒れ込んだ。
「はっはぁ~、だっさ。秀才様も木から落ちるってか。1枚いいっすか?いいっすよね?ピースピース、いぇーい」
スマホを取り出し、連写の不快な音を弾ませながら、撮られる音を聴く時間は、何とも苦痛だった。何とか耐えようと舌を噛み、我慢した。
「ねぇーねぇー、秀才様さぁ、お金貸してよ。この無様な写真を晒されたくなかったら、10,000貸してよ。ねぇーねぇー。」
何で、そうなるのだろう?勝手に晒せばいいのに。そういうのダサいのが、分からない残念なオンナだ。
「勝手にすれば。」
「なっ・・・。」
天パ不良は絶句した。
先ほどまでの強気の彼女とは思えない苦悶の表情を浮かべていた。
よほど、こういうことに慣れてないんだなと残念さに拍車がかかった。
私の長い髪の毛を天パ不良は、引きちぎる勢いで、掴み取った。
「うるせぇんだよ、何、粋がってんだよ、このアマ。頭だけのてめぇにアタシの乙女心が分かんのか、ボケカスメガネェ。」
強烈な痛み以上に、私の頭は真っ白になった。私の苦手なこと一つ。家族以外の人間に触られることだ。
男性であれ、女性であれ、触られるのは、とても不愉快極まりないのだ。
頭が真っ白になりそうな自分を抑えながら、私は誰かが助けてくれることを祈った。
すぐさま、私のクラスの担任が駆け付けた。
「何やってんだ、お前等~。」
「今日の所は、これでいいわ。いくぞ、×。」
「うっす」
私は失神してしまい、その時の記憶が無い。
いつからだったかは、分からない。どうして、触られるのが、苦手なのかもわからない。
理由があれば、良かったのに。
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