39 エピローグ
退院したメイは、すっかり盲目の暴君になった。
コーヒーが濃い薄いでマグカップを投げ捨てられ。タバコが吸いたいと呼ばれてすぐ行かなければ責められ。僕がどんなに忙しかろうが疲れていようがお構いなしに、メイの都合だけで犯された。
でも、そういう扱われ方をされることに密かな悦びを感じているのは確かだ。決して口には出さないけれど。
「ジュノさぁ……本当に反省してるの?」
「してる……してるからっ……」
身体のあちこちに噛みつかれ、生傷が絶えないようになった。けれど、それすら愛おしい。メイは僕の血を舐めて口角を上げた。
「美味いよ。どれだけボロボロになったのかな。目で見てみたかったな」
あれから、記憶を消せないか試してみたが、効果はなかった。僕の能力は相手に視力がないと通用しないらしい。つまりは、今の状態を続けていくしかない。
「ジュノ、腕枕して」
「んっ……」
メイは僕の身体を手で探りながら頭を僕の腕に乗せた。
「メイ、このまま寝るの? 服は……」
「着なくていいよ。また気が向いたらジュノのこと虐めるし」
「作業、進めなきゃまずいんだけど。稼げなかったらメイの面倒もみれないよ」
「うるさいなぁ。寝ずにやればできるでしょ。俺の人生メチャクチャにしたんだ。それくらい自分で考えて自分でやって」
メイはもう、どういう条件で起爆するかわからなくなっていた。髪を撫でて殴られることもあれば、何もしないからという理由で罵られることもあった。
「俺、とりあえず寝るから。ちゃんと寝かしつけて。ジュノが先に寝たら許さない」
「わかったよ……」
おそるおそる、メイの手を握った。今回は大丈夫なようだ。握り返してくれた。
「……ジュノのこと、憎いよ。憎いけどさ。自分でもわけわかんねぇんだよ。兄弟だったっていう記憶はもう戻らないだろうし。まあ、兄弟でよかったよな。病院行く時も説明が早かった」
「うん……そうだね」
「ジュノは一生、俺に縛られるんだからね。やっぱり目ぇ潰して良かった。後悔してないよ。俺が死ぬまで面倒見させてやるから」
しばらくして、メイは眠った。僕はそっと寝室を出て、仕事部屋に行った。片付けなければならない案件はあったが、僕はそれを放ってアコースティックギターを取り出した。今のメイには、もう、音楽くらいしか楽しみがないから。
――セイングアイラブユー。
何度か聴かせたことのある歌を録音し始めた。終わった後、流れていた涙の理由は何だろうか。
「……愛してるよ」
僕たちはこれでいい。これで良かったんだ。
了
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