第5話

ヨガ教室に通う生活が始まってから数週間が過ぎた。真紀はその静かな時間の中で、心と体の調和を感じるようになっていた。教室に通うたびに、彼女の心は少しずつ癒されていった。


ある日、ヨガ教室で出会った一人の女性が、真紀の心に温かな印象を残した。彼女の名前は佐藤美咲であり、同じく心の傷を癒すためにヨガを始めたという。


「あなたもここに来ているのは、何か理由があるのでしょう?」美咲は真紀に尋ねた。


「ええ、そうです。私は…大切な人を失ったばかりで…」真紀は静かに答えた。


「私も同じです。私たちは、ここで心の平穏を見つけるために出会ったのかもしれませんね。」美咲の言葉には、優しさと共感が込められていた。


美咲との出会いは、真紀にとって新たな希望の一歩となった。二人はヨガ教室でのレッスン後に一緒にお茶をするようになり、お互いの話を語り合った。


美咲は、自身の過去や心の痛みを真紀に打ち明けることで、真紀もまた自分の心の内を語ることができた。彼女たちは、互いの存在が支えとなり、心の癒しを求める旅を共有するようになった。


「あなたと話すことで、少しずつ前に進める気がします。」真紀は美咲に感謝の気持ちを伝えた。


「私もです。私たちは、ここで新しい友人を得ることで、心の傷を癒すことができるのですね。」美咲は微笑みながら答えた。


ヨガ教室でのレッスンを続ける中で、真紀は自分自身と向き合う時間が増えた。瞑想の時間は、彼女にとって特別な癒しの瞬間となり、心の中に溜まった感情を解放する場となった。


ある日、ヨガのインストラクターがこんな言葉を語った。「私たちの心は、時に重く、時に軽く。大切なのは、その重さを受け入れ、軽やかに生きることです。」


その言葉は真紀の心に深く響いた。彼女は過去の痛みを否定するのではなく、それを受け入れることで心の平穏を見つけることができるのだと悟った。


レッスンの終わりに行われる瞑想の時間、真紀は静かに目を閉じた。呼吸を整え、心を静かにする中で、清志との思い出がふと浮かび上がった。彼の笑顔、彼の声、そして共に過ごした幸せな日々。


「清志、あなたのことを忘れない。でも、私は前に進まなければならないの。」その言葉を心の中で繰り返しながら、真紀は涙を流した。


その涙は、悲しみだけでなく、新たな希望の象徴でもあった。真紀はその涙を通じて、心の中に溜まった感情を解放し、新たな一歩を踏み出す力を得たのだった。


ヨガ教室での友人たちとの交流や、瞑想の時間を通じて、真紀は少しずつ心の平穏を取り戻していった。美咲との友情は、彼女にとって大きな支えとなり、お互いに励まし合うことで前に進む力を得た。


福岡の街を歩く真紀の心には、新たな光が差し込んでいた。彼女は過去の痛みを受け入れ、その上で新たな人生を築く決意を固めたのだった。


「清志、ありがとう。あなたとの思い出が私を強くしてくれた。」


そう心の中で語りかけながら、真紀は前を向いて歩き続けた。ガンジス川の流れと共に、彼女の心も新たな旅路を進み続けるのであった。

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